コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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将棋の初手30通りを全て検証してみた①

はじめに

第二期電王戦2番勝負第1局の観戦記が公開された。

「人智を超えし者」佐藤天彦 叡王―将棋ソフト PONANZA:第2期電王戦 二番勝負 第1局 観戦記

佐藤慎一五段による観戦記であり、その中でPONANZAの初手に関する記述もある。

一部を引用する。

PONANZAの初手は22手の選択肢からランダムに選ばれるように設定してあるという。
 これは練習用に佐藤叡王にソフトの貸し出しを行った為、特定の作戦をたてられないようにするという、開発者側の作戦だ。

事前貸し出しありというルールによってその対策として使われた作戦だが、結果的に将棋の可能性をさらに見出す結果となったのは面白いところである。

今回、私はもっと将棋の可能性を知りたいと思い、初手30通りの指し手全てを調べてみることにした。

➀では初手に歩を突く指し方をみていくことにする。

 

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初手で歩を突く

将棋の初手として可能な初手は30通りある。PONANZAはその中で8通りが除外されたようだが、今回の記事からは全ての初手に関して検証していくことにする。

▲9六歩

初手▲9六歩は先後ともに居飛車、振り飛車どちらにも対応できる初手。

様子見の側面もある。


棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona

(初手からの指し手)

▲9六歩 △3四歩 ▲3八銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408062936p:plain

上図は3手進んだ局面だが、ここから相手が居飛車できても振り飛車できても対応できるようになっている。

(上図からの指し手)

△8四歩 ▲2六歩 △3二金 ▲7八金 △8五歩 ▲2五歩 △3三角 ▲3六歩 △2二銀 ▲3七銀 △6二銀 ▲7六歩△8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲1六歩 △8二飛 ▲8七歩 △4二角 ▲4六銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408063341p:plain

本譜は飛車先を切らして右銀を繰り出していく将棋となった。

上図は私見では先手の模様がすでにいいように感じる。

△3三銀なら▲3五歩からの攻め足が速い。

▲8六歩

よく「将棋の初手で最も悪手なのはどの指し手か?」という議題で候補に挙がるのがこの▲8六歩である。

実際floodgateでも上位ソフトはこの▲8六歩はほとんど指さないのでよくない手とみて間違いないだろう。

電王戦でのPONANZAもこの初手は除外していたと予想される。

この初手▲8六歩だが一局だけfloodgateで面白い将棋があったので紹介する。

Shueso_2c vs. Bonanza6.0-Opteron250-2c (2013-03-20 09:00)

(初手からの指し手)

▲8六歩 △8四歩 ▲7八金 △8五歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲7六歩(下図)

f:id:fg_fan7:20170408064617p:plain

初手▲8六歩をとがめに行くなら2手目△8四歩は必然。

以下、先手は飛車先を交換されてしまったが上図最終手の▲7六歩がささやかな工夫の一手。つぎに△8六歩なら▲7七桂△8二飛▲8五歩と受けようということだろう。

(上図からの指し手)

△3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金
△4三銀 ▲8七歩 △6二玉 ▲6六角 △7二銀 ▲5六歩 △7一玉 ▲7七桂(下図)

f:id:fg_fan7:20170408070148p:plain

先手もしばらくは8筋に歩を打たなかったが、駒組みが難しくなり▲8七歩~▲6六角~▲7七桂と活用していった。

確かに上図は先手のほうが駒組みが難しいが、局面自体はそこまで悪くはないと思う。

以下、実戦は後手の勝ちとなっている。

▲7六歩

最もメジャーな初手であり、あまりに有名なのでここでは詳しい説明は割愛する。

ただ、個人的には角交換型の将棋になりやすい為、最近ではほとんど指していない。

▲6六歩

藤井九段が一時期愛用していた初手。

曰く、後手が△8四歩を突くまでは▲7六歩は保留できるのではないかという着想だったようだ。

以下、森下の対振り飛車熱戦譜 より一部を引用する。

「手の必然性」を非常に重んじる藤井さんが、かつて公式戦で初手▲6六歩と指したことがある。これは「初手▲7六歩は必然か」という事まで遡って突きつめ、一から自分の力で将棋を構築しようという思想の現れである。

floodgateでも初手▲6六歩はさかんに指されている。

例えば、この一局は面白い。

SM_furibisya_book vs. ukamuse_2c (2016-11-06 00:00)

(初手からの指し手)

▲6六歩 △4二玉 ▲6八銀 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲6七銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲7八金 △8七歩 ▲7九角 △3四歩 ▲2五歩(下図)

f:id:fg_fan7:20170408072127p:plain

藤井九段の初手▲6六歩の思想とは異なり、SM_furibisya_bookは8筋を切らす構想に出た。

これは近年注目されている、嬉野流の指し方である。

(上図からの指し手)

△7二銀 ▲5六歩 △3二銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 角 △3一玉 ▲7九角 △2三歩 ▲4八銀 △6四歩 ▲5七銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408120747p:plain

先手は2筋を切り、上図最終手▲5七銀で6筋を厚くして対応した。

以下は完全に定跡外の力戦形となった。力と力の戦いである。

▲5六歩

▲7六歩、▲2六歩に続いて有力視されている初手。中飛車一直線の指し方とみられているが、それ以外の構想も考えられる。

ponanza-990XEE vs. Apollon (2014-06-02 06:30)

(初手からの指し手)

▲5六歩 △3四歩 ▲5八飛 △3三角 ▲4八銀 △6二銀 ▲5七銀 △3二銀 ▲4六銀 △4四歩 ▲7六歩 △4三銀 ▲3六歩 △6四歩 ▲3五歩△6三銀 ▲3四歩 △同 銀 ▲3八飛 (下図)

f:id:fg_fan7:20170408140932p:plain

ponanzaはいったん中飛車にしてから袖飛車に振り戻した。

▲3八飛の局面はすでに後手は3筋の銀が受けにくい格好になっている。

(上図からの指し手)

△3二飛 ▲6八玉 △4三銀 ▲7八玉 △2二角 ▲3五銀 △6二玉 ▲3四歩 △5二金左 ▲2六歩 △7一玉▲2五歩 △7二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲2八飛 (下図)

f:id:fg_fan7:20170408141318p:plain

後手は△3二飛となんとか凌ぐ手をひねり出したが、先手はあわてず▲6八玉と居玉を避けておく。(ここで▲3四飛は△1五角で先手がしびれる)

本譜、後手は駒がどんどん下がっていき苦しい展開。

先手は2筋に攻めの照準を切り替え、局面を有利に導いた。

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▲4六歩

かつて私の大学時代の先輩が指していたのを思い出す初手だ。

floodgateでも数百局指されている。

将棋ウォーズではApery2016が70局前後指しているようだ。

後手が居飛車の場合は飛車先を切らしての▲4七銀型、振り飛車の場合は先手は右四間飛車模様が有力となる。

ケース1

BlunderXX_Q6700_2c vs. gps_l (2013-07-02 23:00)

(初手からの指し手)

▲4六歩 △8四歩 ▲4八飛 △8五歩 ▲7八金 △3四歩 ▲3八銀 △6二銀 ▲4七銀 △4二玉 ▲2六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩△8二飛 ▲5六銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408142726p:plain

↑ 最近では序盤早々に飛車先を切らすのも苦にならなくなってきた。

ケース2

God_Whale_sdt4a_6950XEE vs. gpsfish_normal_1c (2016-07-12 03:00)

(初手からの指し手)

▲4六歩 △8四歩 ▲7六歩 △3四歩 ▲3八銀 △8五歩 ▲4七銀 △3二金 ▲2二角成 △同 銀 ▲8八銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲7五角(途中図)

f:id:fg_fan7:20170408143250p:plain
△8二飛 ▲5三角成 △6二銀 ▲7五馬 △9五角 ▲7七桂 △8七歩 ▲9六歩 △8八歩成 ▲9五歩 △8七飛成 ▲9七馬 △7七龍 ▲8八馬(下図)

f:id:fg_fan7:20170408143317p:plain

↑ このような乱戦も考えられる。

ケース3

YaneuraOu_classic_tce_6700K vs. HIRAOKA (2016-04-11 15:30)

(初手からの指し手)

▲4六歩 △3四歩 ▲3八銀 △8四歩 ▲7八金 △4二飛 ▲7六歩 △4四歩 ▲4七銀 △3二銀 ▲5六銀 △4三銀 ▲6六角 △6二玉 ▲8八銀△5四銀 ▲4八飛(下図)

f:id:fg_fan7:20170408143856p:plain

後手の陽動振り飛車に先手は銀を腰かけてから右四間飛車に構える。

先手の形もよくはないが後手も△8四歩が取られる形なのでいい勝負である。

▲3六歩

これはプロ公式戦でもごくまれに見られる初手。

この後の構想では袖飛車のイメージが強いが、コンピュータは早繰り銀もよく指している。

ケース1

棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona  後手

(初手からの指し手)

▲3六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲6八銀 △4二飛 ▲4八銀 △5四歩 ▲5六歩 △7二銀 ▲5七銀左 △6二玉 ▲6八玉 △7一玉 ▲7八玉△3二銀 ▲2五歩 △3三角 ▲9六歩 △9四歩 ▲3五歩 △同 歩 ▲4六銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408145549p:plain

後手の四間飛車に対して先手は角道不突きの急戦に出た。

後手は△5四歩と△7一玉型のバランスが悪く、ここでは先手が一本取っている。

ケース2

棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona 後手

(初手からの指し手)

▲3六歩 △3四歩 ▲4八銀 △8四歩 ▲9六歩 △3二金 ▲3七銀 △7二銀 ▲2六歩 △8三銀 ▲7六歩 △7四銀 ▲2五歩 △8五歩 ▲2二角成△同 銀 ▲8八銀

(途中図)

f:id:fg_fan7:20170408150006p:plain

△6五銀 ▲7七銀 △3三銀 ▲4六銀 △4四歩 ▲7八金 △5四銀 ▲5六歩 △4二玉 ▲6九玉 △1四歩 ▲7九玉 △5二金▲9五歩(下図)

f:id:fg_fan7:20170408150034p:plain

結局、角換わり先手早繰り銀VS後手腰掛け銀に落ち着いた。これは一局の将棋である。

ケース3

NineDayFever_XeonE5-2690_16c vs. Titanda_L (2015-04-16 20:30)

(初手からの指し手)

▲3六歩 △3四歩 ▲3八飛 △3二飛 ▲6八玉 △6二玉 ▲4八銀 △7二玉 ▲9六歩 △8二玉 ▲5八金右 △9二香 ▲7八銀 △4二銀 ▲7九玉△9一玉 ▲5六歩 △8二銀 ▲7六歩 △7一金 ▲5七銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408150606p:plain

これは従来から初手▲3六歩ではよく見る先手袖飛車VS後手三間飛車の戦い。

ただ、先手の升田美濃にする指し方は比較的珍しいかもしれない。

これは一局の将棋である。

▲2六歩

初手▲7六歩に続いてメジャーな初手として知られる。

ただ、最近では居飛車党はこの初手▲2六歩を選択するケースが増えてきたように感じている。

これは以下のような理由が考えられる。

・2手目△3二飛を防ぐ。

・3手目▲2五歩が損でないことがわかってきた。

・先手矢倉を指さない居飛車党の増加。

・角交換振り飛車の変化をなくす。

といった理由から採用率が高まってきている。

特に3手目▲2五歩は高段アマの中にも支持者が多く、今後に注目が集まっている。

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▲1六歩

初手に歩を突くシリーズの最後となる▲1六歩。これはなかなか有力な初手だ。

私の中のイメージとしては後手番になって中盤戦で+αの得を目指す指し方という認識である。

将棋ウォーズの2016Ponaもこの初手を100局弱指しており、構想も多岐に渡っている。

ケース1

棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona 後手

(初手からの指し手)

▲1六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4二飛 ▲6八玉 △6二玉 ▲5八金右 △7二玉 ▲9六歩 △9四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲4八銀 △8二玉 ▲3六歩(途中図)

f:id:fg_fan7:20170408152415p:plain
△3二銀 ▲7八銀 △4四歩 ▲7九玉 △4三銀 ▲3七桂 △9二香 ▲2九飛 △9一玉 ▲4六歩 △5四銀 ▲9七角 △5二金左 ▲4七銀 △8二銀▲8六角 △7一金 ▲8八玉 △7四歩 ▲5六銀 △4一飛 ▲2六飛(下図)

f:id:fg_fan7:20170408152511p:plain

後手の四間飛車に対して先手の升田美濃+端角。

最終手▲2六飛で初手▲1六歩が効いてきた。

このように対振り飛車では居飛車の税金である▲1六歩を初手で突いたということになる。これも一局の将棋である。

ケース2

棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona 後手

(初手からの指し手)

▲1六歩 △3四歩 ▲9六歩 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲1五歩 △7二銀 ▲6八飛 △4二銀 ▲2二角成 △同 金 ▲4八玉△3三銀 ▲6六歩 △3二金 ▲3八玉 △4二玉 ▲2八玉(下図)

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2016Ponaは序盤で右端の位を取ることができるとまれに振り飛車にすることがあるようだ。

(このブログの読者の方からの指摘。情報ありがとうございます。)

pona流振り飛車はやはり通常の振り飛車とは一癖も二癖も違っている。

実戦の進行を見てみよう。

(上図からの指し手)

△3一玉 ▲7七桂 △2二玉 ▲3八銀 △3五歩 ▲6九飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲6八銀 △8九角 ▲6七銀 △7八角成 ▲同 銀 △8八飛成 ▲5六角 △7九金 ▲9七角 △同 龍 ▲同 香 △6九金 ▲同 銀 △9九飛 ▲5八銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170408153916p:plain

本譜は後手が△8九角から強襲を仕掛けたものの、Ponanzaは丁寧に面倒をみて捌いた。

(上図からの指し手)

△9七飛成 ▲8二歩 △6四角 ▲8一歩成 △3六歩 ▲8二と △3七歩成 ▲同 銀 △7七龍 ▲3四歩 △4四銀 ▲4一飛 △2五桂 ▲4六銀 △3六歩▲7二と △7九龍 ▲3三銀 △同 桂 ▲2一金(下図)
まで65手で先手の勝ち

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後手は△9七飛成と指すしかないがここで▲8二歩がじわじわと効く勝着となった。

歩でと金を作ってから桂と銀を取り、▲4一飛とおろすのが早い寄せとなった。

まとめ

➀では初手に歩を突く指し方についてみていった。

結論的にはやはり初手▲8六歩だけはやや損ながら、それでもいきなり悪くなるわけでもなくどの歩を突いても戦えるという結果となった。

最後に千田六段によるツイートを添付して➀は終了とする。

(次回以降このテーマは②で終わるか③まで行くかは未定)