はじめに
「ソフトに弱点はあるのか?」
電王戦が行われるたびに話題として上がってきたこのテーマ。
1.序盤でハメたり、有利を奪ってからの先行逃げ切り
2.無理やりでも入玉をしてしまう
3.終盤の詰む詰まないという際どい局面に持っていき、ソフトの頓死や読み抜けを狙う
といったものが代表例として挙げられることが多かった。
1.に関しては電王戦FINALの斎藤-Apery、阿久津-AWAKE、第3回電王戦の豊島-YSS
2.に関しては第2回電王戦のPuella α-塚田(引き分け)
3.に関しては電王戦FINALのSelene-永瀬
といった対局が思い出される。
その他の棋士の勝利となった、第2回電王戦の阿部光-習甦は中盤でのソフトの無理攻めを咎めたという少し珍しいケースだった。
過去にはこういったソフト側にも弱点があったが年々ソフトが進化していく中で、徐々に弱点は無くなりつつある。
特に、1.のハメ手がほぼ効かなくなっていることは第2期電王戦、佐藤天-PONANZAでの永瀬六段の発言でも言われていた。
↓参考記事
www.fgfan7.com
また、2.はむしろ現在ソフトは入玉がかなり上手くなっている。
elmo開発者の瀧澤さんはelmoが入玉する際には、評価値が高くなるように設定しているという。
入玉しても引き分け有るよって教えたら弱くなったから、elmoには「入玉は正義」って教えてる。
— 瀧澤 誠@elmo (@mktakizawa) 2017年5月10日
3.に関しては以前からその弱点は言われ続けていたものの、実際ソフトと対局する際にそのようなギリギリの局面まで持っていくのが難しく、実現したのはSelene-永瀬の一局のみであった。(実際は角不成に対応できずSeleneの反則負け)
また、そのような弱点も2013年〜2016年中頃まではfloodgateの将棋でも見受けられたものの、2017年5月現在ではだいぶ改善されているように思われる。
今回はその終盤での詰む詰まないという際どい局面での逆転劇を2014年1月にfloodgateで指された将棋から考察してみたいと思う。
終盤の逆転劇
Apery_2700K_4c vs. NineDayFever_XeonE5-2690_16c (2014-01-19 05:00)
先手Aperyの銀冠、後手NineDayFeverの四間飛車穴熊から始まった将棋の終盤の局面。
132手目に△8四桂と跳ねた手が勝負手。
この手には恐ろしい狙いが込められていた。
本譜は▲7三とと銀を取ったがなんとこれが敗着となった。
NineDayFeverの△7五角(下図)が一瞬の隙を突いた決め手。
これに対して本譜は▲同 銀と取ったが以下、 △9六金 ▲同 金 △8七金 ▲同 銀 △8八角 ▲9八玉 △9七香 ▲同 金 △4四角成 ▲7八銀 △8八飛(下図)まで146手で後手の勝ち
となった。
金駒余らずのピッタリの詰みでNineDayFeverはApery玉を詰まし上げた。
135手目に▲7五同歩としても、以下△9六香 ▲同 金 △8七金 ▲同 銀 △7九角 ▲8六玉 △7六金 ▲同 銀 △同 龍という手順で詰む。
敗着は133手目の▲7三とで、正着は▲9六桂(下図)。
以下、△8八龍 ▲同 金 △6八角 ▲7七銀打 △6九角 ▲7八桂 △7九銀 ▲7三と △8八銀不成▲8六玉 △7七銀不成▲同 銀 △8一金打 ▲5一飛(下図)
と進み、先手優勢(+1368)の将棋だった。
総括
この将棋のように終盤で判断を誤り、逆転した将棋はfloodgateでは以前まではよく見られていた。
最近ではこのようなケースは減ってきたように感じるが、それでも持ち時間の短い将棋ならこのようなケースはまだまだ起こり得るだろう。
以下はコンピュータ将棋開発者Qhapaqさんのツイートより。
Qhapaqはかなり中盤に特化したチューニングをしていて(終盤は教師から外す方が勝てる。例え一手0.1秒でも)、ソフト全体のトレンドも今後はそういう方向に向かうと思ってるので、詰むや詰まざるやの局面は意外と引っ掛かるのではと考えてます(まあ、そこまで持ち込むのがムズいのですが)
— Qhapaq (@Qhapaq_49) 2017年5月22日
このツイートでも触れられているようにそういった詰む詰まないという局面に持っていくのは相当難しい。
floodgateの将棋でも大半が中盤でどちらかに形勢が傾き、そのまま押し切るという将棋なのだ。
だが、前提知識としてこのような判断ミスはソフトも起こすというのは頭に入れておいて損はないだろう。
参考書籍