はじめに
コンピュータ将棋にとって駒落ち上手の将棋は以前は不得意だと思われていた時期もあったが、最近ではむしろ従来の定跡にとらわれない指し方で、下手を驚かすような構想をみせることも増えてきた。
今回の記事では今年の3月11日、12日におこなわれた「人類vs電王PONANZA だれでも所持金300万円」という企画で指された駒落ちの将棋からponanzaのみせた斬新な構想の将棋を紹介していきたい。
実戦譜
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/42539
日時:2017/03/12
棋戦:人類vs電王PONANZA だれでも所持金300万円
手合割:飛車落ち
下手:挑戦者
上手:ponanza
(初期局面)※飛車落ち
(初手からの指し手)
△3四歩 ▲7六歩 △3三角 ▲同角成 △同 桂 ▲8八銀 △6五角(下図)
3手目△3三角から上手は角道を開けたまま戦う指し方で飛車落ちとしてはいきなり前例にみない指し回しとなった。
飛車落ちの駒落ちでは3手目に△4四歩と止める将棋(参考図)
が圧倒的に多く、定跡書でもそのほとんどがその進行で書かれている。
以下は下手にもいろいろな指し方があるが右四間飛車が最も多く、下図のように進むのが一例。
この指し方をponanzaが好まない理由は分からないが、私が駒落ち上手で上図のような局面になるとどうも息苦しさを感じることが多い。
下手はこの後、▲2五歩~▲2九飛で一歩を手にしてじっくり指す指し方や、▲4五歩から仕掛けていく将棋が考えられる。
私が上手側を持って不満な点として、この局面までに変化の余地があまりなく指定局面かのように進んでしまう点が挙げられる。
そこで実戦譜のようなponanzaの指し方には大変興味を持った。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲5八金右 △7六角 ▲4八銀 △6二玉 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △4三角
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △3二金(下図)
下手が2筋の歩を交換したのに対して、△3二金と上がったのが目一杯頑張った一手。
ここでは、▲2一飛成と飛車を成り込む手が見えるがそれは上手の仕掛けた罠で、以下△2二銀 ▲2三歩 △3一金 ▲2二龍 △同 金 ▲同歩成 △2七飛 ▲3二角 △同 角 ▲同 と △4五桂 ▲3八角 △2八飛成 ▲3九金 △2六龍 ▲2八銀 △2三龍(参考図)
と進み、これは下手としては当初とは想定外の局面となってしまう。
このような変化は下手としても避けたいところである。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲6八玉 △9四歩 ▲7八玉 △2三歩 ▲2八飛 △7二玉 ▲4六歩 △4二銀 ▲9六歩 △6四歩 ▲4七銀(下図)
本譜、下手は上手の誘いには乗らずに玉形の整備をした。
これは好判断で、依然として下手が有利を保つ序盤戦である。
(上図からの指し手)
△5二角 ▲5六銀 △7四歩 ▲7七銀 △5四歩 ▲8八玉 △7三桂 ▲7八金 △6二金 ▲6六歩 △6三金(下図)
下手は腰掛け銀から矢倉に組み、上手は角打ちの隙きを防ぐ苦心の駒組みながら△6三金型に組み上げた。
(上図からの指し手)
▲3六歩 △8四歩 ▲1六歩 △8二銀▲1五歩 △5三銀 ▲1四歩 △同 歩 ▲1三歩 △同 香 ▲1二角(下図)
しばらく駒組みが続くと思われたが、下手は「隙あり」とばかりに48手目に▲1四歩と仕掛けていった。
ここでは▲6七銀からなおも駒組みを進めるのも有力だった。
以下、△4二銀 ▲5六歩 △8三銀 ▲3八飛 △4三銀 ▲7六歩 △8五歩 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 飛 △3四歩 ▲3八飛(参考図)
と進んでどうか。
上手としても自分だけ角を手放しているだけに駒組みに苦心が続く展開だったかと思う。
本譜は▲1四歩~▲1二角と2筋の突破を目指していった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8五桂 ▲2一角成 △7七桂成 ▲同 金 △4三角 ▲6八金 △9五歩 ▲同 歩
△9七歩 ▲同 香 △9六歩 ▲同 香 △8五銀(下図)
下手は馬を作る戦果を上げたが、上手も銀桂交換に成功し楽しみが出てきた。
形勢的には、依然として初期値のまま推移している。
下手が相当上手く指してる将棋である。
(上図からの指し手)
▲3五歩 △5五歩 ▲6七銀 △9六銀 ▲3四歩 △2五桂 ▲同 飛 △9七歩 ▲4七桂(下図)
下手側も端から火がつきはじめたが、▲4七桂が次の▲5五桂をみた好手。
まだまだ形勢をリードしている。
(上図からの指し手)
△7三金▲5五飛 △4二金 ▲4三馬 △同 金 ▲3三歩成 △9八歩成 ▲7八玉 △5四金(下図)
上手は▲5五桂を避けるために△7三金と受けた。
それでも下手は流れるように攻めを続ける。
△9八歩成で端は破られたものの、まだまだ下手の形勢がよい状態が続いている。
(上図からの指し手)
▲3五飛 △3一香 ▲6九玉 △4五歩 ▲同 歩(下図)
▲3五飛と回り、次に▲4三とをみせたのに対して△3一香が粘り強い受けの一手。
下手は▲6九玉から右辺に逃げようとする。
上手の△4五歩に対して▲同歩と取ったのが悪手となってしまった。
▲同歩では▲7五歩と攻めるのが有力で、以下△4六歩には▲7四歩 △同 金 ▲5二角 △7三歩 ▲5五桂(参考図)
と攻めに転じて下手有望の分かれだった。
本譜は▲同歩と取ったため、のちに決め手を与えることになった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8九と ▲3二歩△同 香 ▲同 と △4六歩(下図)
下手は▲3二歩が敗着となった。
△同香▲同とに△4六歩が厳しい一手となった。
▲3二歩では指しにくいが▲3二とが最善で▲3三飛成をみせて勝負すれば互角の終盤戦であった。
(上図からの指し手)
▲5九桂 △4七歩成 ▲同 桂 △7五桂 ▲3三飛成 △8七銀成 ▲4二と △7七成銀(途中図)
▲同 金 △8八角 ▲7八金 △6七桂成▲同 金 △4八金(下図)
まで107手で上手の勝ち
見事な挟撃の寄せが決まりponanzaの勝ちとなった。
まとめ
序盤はponanzaの筋違い角から飛車落ちの将棋としては見たことのないような展開となった。
しかし、下手の指し方は安定しておりこの上手の作戦が優秀かどうかは今後の研究課題であろう。
中盤までは下手もうまく指していたが、時間切迫もあり終盤でponanzaが逆転し上手の勝利となった。