はじめに
序盤で優位を築いた後に終盤で寄せや受けを間違って逆転負け…。
誰しもが経験したことがあろうその展開だが、終盤のトレーニングを積むことでそういった逆転負けを少なくすることができる。
今回は大平武洋六段の著書これだけで勝てる 将棋 終盤のコツ (マイナビ将棋BOOKS)
のレビューとして終盤の戦い方のコツについて見ていきたい。
レビュー
まずまえがきに、本書は初段を目指す方へ向けた「終盤のコツ」の本です。
と書かれている。
確かに級位者がまず終盤について学んでいくにはちょうどよいレベルの内容だと感じた。
しかし、アマチュア有段クラスの人にとってもこの本は今までの復習の意味で有益な棋書だと思う。また、「ちょっと調子を落としているな…」と感じている人はひと通り読んでみることで指し手の乱れている部分を修正することができるはずだ。
(私はこの本を全部読んだ後で、ネット将棋のレートが100ほど下がっていたのを元くらいの点数に戻すことができた。)
本書の構成は
序章 終盤 大事な三つのコツ
第1章 終盤の基本手筋4
第2章 終盤 攻めの手筋20
第3章 終盤 守りの手筋20
第4章 終盤次の一手10
となっている。今回の記事では第2章 終盤 攻めの手筋20と第3章 終盤 守りの手筋20からそれぞれひとつずつ印象に残った手筋を紹介していきたい。
攻めの手筋
焦点にはチャンスがある
穴熊の急所は3三
上図は例題のひとつ。
ここで▲3三香が急所となる。
このように本書はすべての駒が置かれているのではなく、必要な駒だけ配置されている。
解説として
焦点というのは複数の駒が効いている場所のことで、そこにこちらから駒を捨てて取らせると、駒の利きが変わって何か技が掛けやすくなったりします。
と書かれており、級位者にはとても親切に感じると思う。
これを実戦で応用すると次のようになる。
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/128580
開始日時:2016/10/02 08:30:02
棋戦:wdoor+floodgate-600-10F+4thBear_SilentMajority+Gikou_20160606_1c_3s+20161002083004
先手:4thBear
後手:Giko
先手四間飛車穴熊対後手居飛車穴熊の相穴熊の戦いから終盤戦に入った局面。
ここからの指し手が先ほど見てきた寄せの手筋の応用となる。
(上図からの指し手)
▲9一飛成 △3六香▲3八香 △同香成 ▲同金寄 △3六香 ▲3三香(下図)
▲9一飛成と香を取り、△3六香にはいったん▲3八香と受ける。そして再度の△3六香に▲3三香が「穴熊の急所は3三」の寄せの好手となった。
ここで△同桂には▲3二銀、△同銀には▲3一龍がある。
実戦は▲3三香以下、△3八香成 ▲3一香成 △2八成香 ▲同 金 △3一銀 ▲同 龍 △2二銀に再度の▲3三香(下図)が決め手となった。
このように本書に書かれている内容は実戦でも応用が利くのでひとつひとつの手筋をマスターしていくことが勝率アップにつながるだろう。
守りの手筋
飛車には底歩が有効
次に守り(しのぎ)の手筋からひとつ例題を見てみる。
ここでは底歩の手筋を紹介する。
底歩の利点は、歩が頑張るということにあって、これが金や銀では、取られたときに損害が大きいので使えません。底歩は一段目に打つ歩なので、飛車や龍以外の駒にはあまり意味がないということも覚えてください。
底歩は玉から遠い方がいい
これは、
底歩は堅いですが無敵ではないので、いずれは突破されることになります。
そのときに玉から遠い方が、被害が少ないということです。
と大平六段が解説している。
局面図としては下図が一例。
この▲3九歩によって後手からの△8八銀といった攻め筋を封じている。
これを実戦で応用すると次のようになる。
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/128601
開始日時:2013/04/12 10:30:03
棋戦:wdoor+floodgate-900-0+ponanza-990XEE+gps_f+20130412103003
先手:ponanza
後手:gps_f
後手gpsのゴキゲン中飛車に先手のponanzaが急戦を仕掛けた将棋の終盤戦。
ここで▲3九歩(下図)が手堅い受けの一手だった。
この一手により、自陣が一時的にせよ、かなり安全になったのがわかると思う。
実戦は以下、△8四香 ▲5三桂 △7一金 ▲6二金 △同 金 ▲7一角 △9二玉 ▲6二角成 △8二金▲7二馬 △同 金 ▲9三金(下図)
と進んで先手の勝ち筋となった。
お互いの飛車が敵陣にいる場合は、内側にいる方の価値が高いということになります。
という大平六段の解説通りの展開となった。
まとめ
今回の記事で紹介した寄せと受けの手筋以外にも本書は実戦で役に立つ手筋が満載なので、ひとつひとつをマスターすることにより実戦での勝率アップが見込めるだろう。
対象棋力としては級位者~アマ三段クラスまで。
また、それ以上の棋力の人でも「なんか最近逆転負けが多くて調子が悪いな…」と感じている人にとってもいい棋書だと思う。
本書は終盤の総合力を上げることに関して格好の教材である。