本記事では『別冊宝島 将棋「名勝負」伝説』の中でコンピュータ将棋に関係する記事について感想を書いていきたいと思う。
本書は特集として「将棋と人工知能」がテーマとなっている。
その中でも大きく3つのテーマとして
・スペシャルインタビュー 渡辺明 竜王
・インタビュー150分! 千田翔太五段
・「ソフト時代」3つの課題に将棋界はどう立ち向かうのか 大川慎太郎
があり、今回はこの3つに絞ってみていきたいと思う。記事はそれぞれ3つに分けて書いていきたい。
まず①として、渡辺竜王のインタビュー記事を見ていく。そこには渡辺竜王がソフトとの関わりについて赤裸々に語られていた。
少なくとも「不屈の棋士」のインタビュー時よりも踏み込んだ内容になっていると感じた。
おそらくその背景には、ここ半年でコンピュータ将棋がさらに進歩した背景がある。
アマチュア有段〜高段以上の棋力の方なら感じていると思うが、公開されているフリーソフトのレベルが格段に上がったのだ。
具体的に言うと、序盤が相当上手くなった。一部の戦型に見られた評価値の過大評価や粗のある駒組みが洗練され、評価値の出し方は正確に近づき、またコンピュータ発とも言える斬新な構想も見られるようになった。
渡辺竜王ほどの棋力の持ち主なら尚更この変化は痛切に感じているはずだ。
さて、記事を見ていくといきなりインタビュー冒頭から衝撃的な言葉が投げかけられる。
「将棋というボードゲームには、"解がある"という事はもう認めざるを得ないと思う。そしてその解は、コンピュータソフトには分かっても人間には分からないんです」ー
将棋には先手勝ちか後手勝ちか引き分けか(千日手、持将棋)があるが、それはソフトにしか分からなく人間には分からない…。すでに冒頭から深刻な出だしで重々しい。
続いて将来の将棋界についての危機感が切実に語られている。
「将棋指しが不要な職業かどうかその答えは数年後にはっきりする」
すでに近未来に対する危惧があるのだ。それほどここ半年のソフトの進化は目覚しかった。
ponanza開発者の山本さんは公には多くを語らないがコンピュータ将棋を生活の第一に捉えているほどの情熱家であるし、Aperyの平岡さんは評価関数の機械学習の為のデータを広く一般ユーザーから集めることで目覚ましい成長を遂げた。やねうら王の磯崎さんはXeon40コア×5台を購入して膨大な計算量を駆使して棋力向上を図った。
この3ソフトが第4回将棋電王トーナメントで下馬評通りにトップ3となった。
ここではすべてのソフトを紹介しきれないが、その他の開発者の方も並々ならぬ情熱をコンピュータ将棋開発に注いでいる。
プロ棋界と同様にコンピュータ将棋界でも激しい競争が繰り広げられているのだ。
しかし、渡辺竜王はこうも語っている。
「タイトルを取れなかったり、A級に上がれなかった人が棋士として価値がないかと言うと、それは違う。コンピュータに負けた棋士の棋譜が価値がないかと言えばそういう事にはならない。それぞれの頑張りみたいなものは、ある程度称賛されるべきだと言う気持ちはあります。」
今までの電王戦を振り返ってみても数々の名勝負があった。それは勝局、敗局は問わずに。例えコンピュータより実力が明らかに格下と人間が見なされてもその人が目指せる範囲で努力すれば必ず将棋界に対する魅力は残り続ける。私はそう思う。勝ち負けの結果だけみて内容を見ないのではあまりに寂しいではないか。
今将棋界は非常に難しい時期に直面しているが、決して後ろ向きにはならずにそれぞれの人が自分のできる範囲で努力していく姿勢が不可欠であると思う。
(②に続く)