はじめに
第1期叡王戦、森内-阿部光戦で強烈なインパクトを放った「矢倉左美濃急戦」。
第1期 叡王戦本戦観戦記 森内俊之九段 対 阿部光瑠五段(君島俊介) | ニコニコニュース
そこからネット将棋でジワジワと指されるようになり、TwitterなどのSNSでも戦法の認知が高まっていった。
そして2016年前半の大流行に繋がる。
しかしここ最近はその矢倉左美濃急戦の流行も落ち着いた印象がある。
この戦法がモバイル中継で指されていてもTwitterでは別段話題になることもない。
今回の記事ではそういった背景を考察していこうと思う。
先手の対策が浸透した
流行初期の頃(2016年4月〜6月頃)は後手が短手数で圧倒する将棋が多かった。
これは明らかに先手側の目がこの戦法に対して慣れていなかったからだろう。
そして2016年7月頃から現れだした居玉+▲4六角型が矢倉左美濃急戦にとってまず1つの難敵となった。
この素早い後手の攻撃体制への牽制が有力指されるようになり採用率が増えた。
後手は右四間飛車+△5四銀で攻めようとするも先手の▲7五歩の切り返しにより、陣形が弱体化してしまうのが懸念材料となった。
後手の反撃
矢倉左美濃急戦側もこの対策に黙っているわけにはいかない。
そこで右四間飛車にはせず、△8二飛で攻めの形を構築するのが模索されていった。
・△8三飛と浮く
・△6二金+△8四飛
・△6二金+△8一飛
・△5四銀+△6三金
しかし、これらも先手の対策がしっかりとなされている限り、初期の頃のように一方的に後手が勝つという将棋は少ない。
一方コンピュータ将棋界でのこの戦法の現状は
話をいったんコンピュータ将棋界に移す。
この戦法はコンピュータ将棋界では今もなお流行している。
ソフト同士では矢倉戦になることはそこまで多くはないが、それでも矢倉に対してはこの左美濃急戦を採用するソフトは多い。
それはponanzaだけでなく、その他の上位〜中堅ソフトでもその傾向は続いている。
ponanzaで言えば、昨秋の将棋電王トーナメントや先日のアマチュアPONANZAチャレンジでもこの戦法を採用していたので現在進行形で有力な戦法だと認識している可能性は極めて高い。
4月から始まる佐藤名人との第2期電王戦でもこの戦法が指される可能性はあるだろう。
人間が指しこなすのは難しい
ソフト間では左美濃急戦側の勝率が高いのに実力が伯仲した人間間ではそうでもない。
この違いは中盤以降での戦い方のノウハウがまだまだ人間に浸透していないからだと私は考える。
この戦法は初期の頃とは異なり、盤上を広く見ないと勝てない戦法になりつつある。
後手から見て右辺だけを集中してみるのではなく、左辺の駒も巧みに使わないと攻めが切れてしまったり細くなったりしてしまう。
それを改善する具体例としては
・△1三角と活用する
・△3四飛や△2四飛の転換
・△3三桂の活用
などである。
しかし、これらは実戦でうまく組み合わせるのは非常に難しい。
でも難しいからこその魅力があり、この戦法にチャレンジする棋士が後を絶たないのだと思う。
おわりに
4/14に斎藤慎太郎七段よってこの戦法初の戦術書が発刊される。
この本によって戦法の体系化はより広まり、今後研究はさらに深まると予想される。
中盤以降の戦い方も改良が進んでいくだろう。
2017年は矢倉左美濃急戦にとって勝負の年となるはずである。
私は矢倉自体はなくならないと考えている。
しかし、序盤の駒組みの仕方は 少し今までとは変わった形で指され続けるようになるのではと思う。
今後もこの戦法の動向に注目していきたい。
※9/14に最新編も発刊されました。