コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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将棋の初手30通りを全て検証してみた③

はじめに

➀、②と続けてきたこの初手シリーズも今回が最終回となる。

③では主に初手に右銀、飛車、玉を動かす指し方をみていきたいと思う。

可能性を秘めた初手

初手▲3八銀、▲7八飛、▲5八玉といった指し手はプロ公式戦でも見られるようになってきており、今後に注目が集まっている。

ひとつひとつその良し悪しを検証していく。

▲4八銀

居飛車志向の初手。

2016年のfloodgate上位ソフトではgpsfishや、やねうら王が好んで指している。

ponanzaも数局ではあるがfloodgateでこの▲4八銀を指している。

ケース➀

ponanza-990XEE vs. NineDayFever_XeonE5-2690_16c (2015-02-11 19:30)

(初手からの指し手)

▲4八銀 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲3六歩 △3二銀 ▲7六歩 △4三銀 ▲7八銀 △4二飛 ▲6八玉 △6二玉 ▲2五歩 △3三角 ▲5八金右(途中図)

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△7二玉 ▲9六歩 △8二玉 ▲7九玉 △5二金左 ▲3七銀 △9四歩 ▲8六歩 △7二銀 ▲7七角 △6四歩 ▲8七銀 △7四歩 ▲8八玉 △8四歩▲9八香 △3二銀 ▲9九玉

(下図)

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NineDayFeverのノーマル四間飛車に対してponanzaおなじみの升田美濃→銀冠→銀冠穴熊となった。こうなれば特に初手▲4八銀も普通の将棋である。

ケース②

ponanza_expt vs. gpsfish_mini (2015-04-28 17:00)

(初手からの指し手)

▲4八銀 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲7八金 △3四歩 ▲2五歩 △3二金 ▲6九玉 △7二銀 ▲5八金 △6四歩 ▲7六歩 △8六歩 ▲同 歩△同 飛 ▲5六歩 △8二飛 ▲8七歩(下図)

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次は初手▲4八銀に対して2手目に△8四歩と突く相居飛車の将棋をみていく。

これには先手は飛車先交換を防ぐ指し方もあるが、本譜は相手に飛車先を切らす展開となった。

(上図からの指し手)

△4一玉 ▲3六歩 △7四歩 ▲3五歩 △同 歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △6三銀 ▲2六飛 △2三歩▲5五歩 △4二銀 ▲3七銀(途中図)

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△3三銀 ▲4六銀 △4四銀 ▲6八銀 △5二金 ▲3七桂 △1四歩 ▲5七銀上 △7三桂 ▲5六銀 △3一玉 ▲4五銀左△同 銀 ▲同 銀 △4二金右 ▲3四銀(下図)

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先手は飛車先を切らせた代償を急戦を仕掛けることで求めた。

二枚銀を繰り出しての攻めは強力である。

上図は2筋突破が約束された格好となり先手有利となった。

▲3八銀

初手▲3八銀は第4回将棋電王トーナメントにおいて真やねうら定跡として使われたことにより有名になった。

yaneuraou.yaneu.com

今回、やねうら王は先手だと初手38銀を指します。やねうら王はこれが最善手だと考えているからです。

いなり配達員(?)の千田先生にちょっと盤面を動かして確認していただいたところ、居飛車で角換りになるなら、普通の局面に合流。振り飛車にされても直接咎めることは難しそうという結論になりました。
先手の初手38銀。これを真やねうら定跡と呼ぶことにします。
真やねうら定跡が注目されるためにも、真やねうら王が勝ちまくってくれないと…。(´ω`)

 この初手▲3八銀はponanzaもたまに指しており、相居飛車なら右銀を早繰り銀のように使っていって勝負することが多い。

相手が振り飛車にしてきた時が気になる人も多いと思うが、それにも対応できる。

第3回将棋電王トーナメント 予選

先手:ponanza 後手:nozomi

(初手からの指し手)

▲3八銀 △4二飛 ▲9六歩 △6二玉 ▲9五歩 △7二玉 ▲3六歩 △8二玉 ▲3七銀 △3四歩 ▲6八玉 △4四歩 ▲5八金右 △9二香 ▲7八玉△3二銀 ▲7六歩 △4三銀 ▲3八飛(下図)

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 後手は2手目に△4二飛と指し四間飛車に構えた。対する先手は9筋の端を突き越し船囲いにした後に、2筋を保留して▲3八飛と寄ったのが工夫の一手。

ここから後手の穴熊が完成する前に急戦を狙う。

(上図からの指し手)

△9一玉 ▲3五歩 △3二飛 ▲4六銀 △8二銀 ▲3四歩 △同 銀 ▲3三歩 △同 飛 ▲4四角 △4三銀▲3三角成 △同 角 ▲8八銀(下図)

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途中の▲3三歩が習いのある筋で飛車角交換となる。上図は先手の▲2七歩型が活きており後手は角を打ち込む隙が無い。

まだまだ難解な形勢ではあるが先手の作戦はうまくいったと言えるだろう。

▲7八飛

ここからしばらく初手に飛車を振るケースをみていく。

初手▲7八飛はプロ公式戦でも、門倉五段、菅井七段、久保王将などが好んで指している。

floodgateにおいては全体の割合からは0.3パーセントの確率でこの初手が指されている。

第二期電王戦バージョンのPONANZAも練習対局でこの初手を指してきたそうで、

その中の手順でこのような進行があったという。

(初手からの指し手)

▲7八飛 △4二玉 ▲7六歩 △3二玉 ▲2八飛(下図)

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驚愕の手順だが、先手の手損よりも後手の△3二玉型のほうが弱点があるとみているのだろうか。上図の局面でのSILENT_MAJORITY1.24の評価値は先手-50ほどだがPONANZAはどのように評価するのかは興味深いところだ。

▲6八飛

なんでも四間飛車の初手。

水谷流藤井システムで有名なアマチュアのmztn7さんが好む初手のうちのひとつだった。

水谷流藤井システム

この初手▲6八飛を駆使して将棋ウォーズの2016Ponaに対して2度の勝利を挙げたことは今でも鮮烈なイメージとして残っている。

1局目

将棋ウォーズ棋譜(mztn7六段対2016Pona九段)

2局目

将棋ウォーズ棋譜(mztn7六段対2016Pona九段)

▲5八飛

なんでも中飛車の初手。

ただこの初手よりは▲5六歩のほうが手広い意味がある。

実際、floodgateでも上位ソフトは初手▲5八飛をほとんど指しておらず、データとしては非常に少なくなっている。

ただ、第二期電王戦バージョンのPONANZAの初手の候補には入っていた初手なのでいきなり作戦的に損になるとまではいかないだろう。

▲4八飛

なんでも右四間飛車。

しかし、floodgateでも実戦例は非常に少なく、また第二期電王戦バージョンのPONANZAにおいても除外されていた初手であった。

実際のところ、初手に▲4八飛と指してしまうとその後の駒組みには苦労することになる。

▲3八飛

この初手も▲4八飛と同様、ほとんどfloodgateでは指されていない。

第二期電王戦バージョンのPONANZAもこの手は除外している。

袖飛車にする場合は初手▲3六歩のほうが手広いだろう。

▲1八飛

一間飛車の初手だが、これはその後▲1六歩に△1四歩と突かれてしまうと飛車が活用しにくくなってしまうのであまりよくない。

一間飛車にする場合は1筋の端歩を突き越せたときのほうが得策である。

▲6八玉

ここから初手に玉を上がる手をみていく。

結論からいうと玉が上がる手は▲4八玉以外はなかなか有力である。

しかしどちらかと言えば棋力の高い人のほうが指しこなしやすいと思う。

初手▲6八玉はponanzaも好んで指している。

ponanza-990XEE vs. ycas (2015-11-18 14:30)

(初手からの指し手)

▲6八玉 △8四歩 ▲7六歩 △4二玉 ▲7八金 △8五歩 ▲7七角 △6二銀 ▲2六歩 △7四歩 ▲2五歩 △3二金 ▲8八銀 △3四歩 ▲3八銀△7三銀 ▲3六歩 △6四銀 ▲3七桂 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △6四銀 ▲2九飛

(下図)

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後手に飛車先を切らす指し方もあるが、本局のponanzaは▲7七角と受ける将棋に。

上図は27手目にしてすでに定跡外の力戦形となり力と力の戦いである。

力戦派の方はこのような将棋も試してみる価値はあるだろう。

なお、初手▲6八玉に対して相手が飛車を振ってきた場合には先手は角道保留(クルクル角等)の指し方も視野にいれて一局。

▲5八玉

ある意味、ponanzaの代名詞ともいえるこの▲5八玉。

▲5八玉とあがるタイミングはまちまちだが、初手にあがるケースもある。

 基本的な考え方としては、

相手が振り飛車の場合

玉を58→68に動かして一手損。

相手が居飛車の場合

なるべく58のまま戦う。展開によっては68や69に移動。

というケースが多い。

アマチュアの場合は振り飛車党も多いので初手に▲5八玉と指すのがいいのかは難しいところがある。

しかし初手にこだわらず、序盤の早い段階で▲5八玉と構えて戦うのは視野に入れておくとまた違ってくると思う。

糸谷八段も▲5八玉型に関しては「一手で形が良くなる」と言っていたのでプロも注目している指し方なのだ。

▲4八玉

初手▲7六歩に対して2手目△6二玉という指し方が「新米長玉」として有名だが、初手▲4八玉はそれを先手でやってしまおうという一手。

しかし、これを指しこなすのはなかなか大変であると思う。

私も右玉狙いで何度かやってみたが、なかなか構想段階から苦労する展開になることが多かった。

しかし、この初手は第二期電王戦バージョンのPONANZAの初手の候補手になっていたという。

もう見ることはできない幻の初手となってしまったがPONANZAはどのような構想で指していくのかは見てみたいところである。

▲1八香

最後に初手▲1八香をみてこのシリーズは終了となる。

なんでも穴熊という感じの初手ではあるが、結論を言うとこの初手は居飛車で来られても振り飛車で来られても損になりやすい初手である。

かなり昔のプロ公式戦において初手から、

▲7六歩△3二金▲1八香という将棋もあったが、穴熊に囲う前に攻めをみせられると苦戦に陥りやすい。

居飛車のケース

棋戦:将棋ウォーズ 

後手:2016Pona

(初手からの指し手)

▲1八香 △8四歩 ▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △4二玉 ▲7七角 △7四歩 ▲7八銀 △6二銀 ▲6七銀 △1四歩 ▲7八飛 △3二銀 ▲4八玉△1五歩 ▲3八玉 △7二飛 ▲6八角 △3一玉 ▲5六歩 △6四歩(途中図)

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▲4六角 △6三銀 ▲6八金 △8五歩 ▲2八玉 △8二飛 ▲7七金 △7三桂(下図)

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後手は自然にコンピュータ将棋が対振り飛車において好む形である升田美濃に組み上げた。先手は急戦を警戒し▲7七金と苦心の駒組みをしたが左右分断された形になっており早くも後手リードといえる序盤戦となった。実戦も後手が快勝となっている。

振り飛車のケース

(初手からの指し手)

▲1八香 △3二飛 ▲7六歩 △6二玉 ▲6八飛 △3四歩 ▲4八玉 △3五歩 ▲3八玉 △3六歩 ▲同 歩 △同 飛(下図)

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振り飛車にする場合は2手目に△3二飛が速攻を含みにした一手。

以下囲いもしないうちに突っかけていく。

こうなると先手の初手▲1八香が完全に不急の一手となってしまっているのがわかる。

(上図からの指し手)

▲2八玉 △3三桂 ▲3八飛△同飛成 ▲同 金 △4五桂 ▲2二角成 △同 銀 ▲5五角 △3三角 ▲同角成 △同 銀 ▲2一飛 △3一飛 ▲同飛成 △同 金 ▲5六歩 △5七桂成

(下図)

f:id:fg_fan7:20170415153526p:plain

後手はさらに△3三桂と跳ね速攻含み。先手は▲3八飛と勝負手を放ったものの、やはり後手の攻めは止まらず、一気の速攻が決まった格好となった。

このように初手▲1八香は居飛車、振り飛車どちらでこられても苦戦になりやすい。

第二期電王戦バージョンのPONANZAも除外されている初手であった。

まとめ

➀、②、③と3回に分けて将棋の初手30通りの指し方についてみていった。

なかには指さないほうが良さそうな初手もあったが、今はまだあまり指されていないが有力と思える初手もあり、今後のプロ棋戦などでの登場が楽しみだといえる。

本文中でも触れたが、第二期電王戦第1局後の特番においてPONANZAの初手30通りから8通りが除外された中の残った22通りの指し手について佐藤名人、永瀬六段から正式に公表された。

徹底検証!電王戦第1局研究会 - 2017/04/09 18:00開始 - ニコニコ生放送

22通りと聞いた時から大方予想通りではあったが、それでもこの22通りの意義は大きかったと思う。まだまだ初手から将棋の可能性はあると教えてくれたPONANZA。

もちろん第2局の後手番においても2手目から工夫をしてくるのだろう。

今後もponanza及び、コンピュータ将棋界。またプロ公式戦において初手からのさまざまな工夫が見られることを楽しみにしている。

(3部作 完)