はじめに
前回の続き
www.fgfan7.com前回は初手に歩を突く指し手(9通り)をみていったので②ではその他の指し手(主に金銀を動かす初手)を検証していこうと思う。
マイナーな初手
将棋の初手において有力とされているのは①▲7六歩②▲2六歩③▲5六歩といわれており、それらは前回記事にしたので今回の記事で紹介する初手群はいわゆるマイナーな初手と分類されることになるかと思う。
しかし、それらの中には有力な初手もあるのでひとつひとつ検証していく。
▲9八香
穴角戦法を目指す初手だが、残念ながらコンピュータ将棋的にはfloodgateで検索してみても上位ソフトは全く指しておらず「候補にない初手」という結果となった。
PONANZAが除外していた初手のうちのひとつとみて間違いないだろう。
▲7八銀
人間が指しているのをほとんど見たことがない初手だがこれはなかなか有力。
初手▲7八銀からの有力な指し方は2つあり、升田美濃に組む形とパックマンとなる。
まず升田美濃にする将棋から。
luminos vs. GPSfish021_r2896_4C (2014-04-16 17:30)
(初手からの指し手)
▲7八銀 △3四歩 ▲4八銀 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲6八玉 △7二銀 ▲2五歩 △3三角 ▲7九玉 △3二銀 ▲5八金右 △7四歩 ▲7六歩△4二玉 ▲5六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩(下図)
先手は一目散に升田美濃に組む。注意すべきは玉が79までいってから角道を開けること。そうしないと角がただ取りされてしまう。
上図は一局の将棋としかいいようがないが、居飛車党ならこのような将棋も考えてみてもいいだろう。
次にパックマンにする指し方をみてみる。
ApeTW_Pack_EC2Win16-8 vs. nanopery_FX9590_4.7GHz_test (2015-12-29 22:30)
(初手からの指し手)
▲7八銀 △3四歩 ▲6六歩 △同 角 ▲6八飛 △5七角成 ▲7六歩 △6八馬 ▲同 金 △2二飛 ▲6五角 △3二金 ▲8三角成(下図)
通常のパックマン戦法は後手番でもちいるが、この指し方はそれの先手番での応用である。
▲7八銀が入っている分、自陣は補強されているのですこし得はしている。
上図は完全な力戦形ではあるが、試してみる価値はあるだろう。
▲6八銀
嬉野流として有名になった初手。
floodgateでは嬉野流専門のソフトが一時期存在し、また将棋ウォーズの2016Ponaも10局弱、この初手を指している。
棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona
(初手からの指し手)
▲6八銀 △8四歩 ▲7八金 △8五歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲2六歩 △3二金 ▲6七銀 △6四歩 ▲2五歩 △6三銀 ▲5八金 △8六歩 ▲同 歩△同 飛 ▲8七歩 △8二飛 ▲7九角 △3四歩 ▲5六歩 △4一玉 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 角 △2三歩 ▲5七角(下図)
Ponanzaは▲6七銀・7八金型を好む。
本譜は最近のソフトの流行である飛車先を切らす展開になった。
完全に力戦形ながら先手としても不満はない序盤戦である。
▲7八金
初手▲7八金はPonanzaが好む初手のうちのひとつ。
プロ棋戦では最近、棋王戦のタイトル戦で千田六段が指した。
2017年2月5日 五番勝負 第1局 渡辺明棋王 対 千田翔太六段|第42期棋王戦
相手が居飛車で来たならば、角換わり、横歩取り、相掛かりなどで普通に対応して一局。
振り飛車で来た時がやや気になるがその時の参考棋譜をみてみよう。
ponanza-990XEE vs. gpsfish_XeonX5680_12c_bid (2016-03-21 14:00)
(初手からの指し手)
▲7八金 △3四歩 ▲7六歩 △4二飛 ▲2六歩 △4四歩 ▲9六歩 △7二銀 ▲9五歩 △7四歩 ▲6九玉 △3二銀 ▲4八銀 △4三銀 ▲5六歩△6四歩 ▲5七銀 △6二玉 ▲3六歩 △5二金左 ▲6八金 △6三銀 ▲7八玉(下図)
先手は銀冠にする指し方もあるが、組み上げるまでの自陣の形がやや気になるところだ。
ponanzaは78~68に金を動かし78に玉を持っていく指し方も多い。
(上図からの指し手)
△7二金 ▲4六銀 △3三角 ▲3五歩 △4五歩 ▲3三角成 △同 桂▲5五銀 △3五歩 ▲2五歩 △2二飛 ▲8八角 △4二金 ▲4四銀 △同 銀 ▲同 角 △2一飛 ▲5八金上
(下図)
後手陣が△6二玉型なのを見越して急戦を仕掛けていく。
上図最終手の▲5八金上で先手陣は金無双の形になったが、私はこの指し方を「金無双急戦」と呼んでいる。
このような指し方もあるので慣れは必要だが初手▲7八金は振り飛車にも対応できる。
▲6八金
なんとも形容しがたい初手。
一応の狙いとしては69~78に玉を持っていき、戦えなくもないが特にメリットもなく電王戦のPONANZAもこの初手は除外していたかもしれない。
なお、floodgateでの上位ソフトは初手▲6八金はほとんど指していなかった。
▲5八金左
▲5八金左は初手最悪手候補のうちのひとつとしてよく挙げられる。
当然ながらfloodgateでも上位ソフトはほとんど指していない。
電王戦のPONANZAも除外していたことだろう。
せっかくなので一局だけ紹介する。
YaneuraOu_XeonE5-2690v3_24core vs. TMOQ_64bit (2016-04-16 19:30)
(初手からの指し手)
▲5八金左 △3四歩 ▲4八銀 △8四歩 ▲7八銀 △8五歩 ▲7九角 △3二銀 ▲5六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩 △5六飛 ▲5七銀△5四飛 ▲2六歩 △3三銀 ▲2五歩 △1四歩 ▲7六歩 △6二玉 ▲6六銀 △7二銀 ▲6九玉(下図)
まさか▲5八金左と上がった金を68~78と戻すわけにはいかないので、本譜のような駒組みになるのは仕方がない。
上図は形勢不利とまではいかないものの駒組みが難しく、やはり先手が好んで指す変化ではないと思う。
実戦はマシンスペックの差もあり先手の勝ちとなった。
▲5八金右
可もなく不可もなくという印象の初手。
当然ながら初手にこう指すと振り飛車にはしにくくなる。
かといって居飛車党ならば他の初手を選びたいという人が大多数だろう。
2016Ponaが4局ほど指していたので一局紹介する。
棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona
(初手からの指し手)
▲5八金右 △3四歩 ▲9六歩 △9四歩 ▲7六歩 △3二金 ▲7八金 △8四歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲2六歩 △4二銀 ▲2五歩 △3三銀 ▲5六歩△5四歩 ▲6八銀 △5二金 ▲4八銀 △8五歩 ▲6七銀(下図)
上図まで進めば普通の将棋ではある。
余談ではあるが、最終手は矢倉を目指すならば▲7七銀だが、Ponanzaは▲6七銀と上がり雁木を目指すことのほうが多い印象がある。
雁木という戦法は主流ではないもののとても有力な戦法であり、将来的には対局数も矢倉<雁木となっているかもしれない。
(上図からの指し手)
△4四歩 ▲3六歩 △4一玉 ▲4六歩 △4三金右 ▲3七桂 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲8七歩 △8二飛 ▲6九玉 △7四歩 ▲6五歩 △7三桂 ▲4七銀 △3一玉 ▲1六歩 △1四歩 ▲7九玉 △5三銀 ▲4五歩(下図)
雁木は居角で攻めることができるのが魅力の戦法である。
囲い⑨「雁木囲い」
— 将棋格言 (@syougikakugenn) 2017年4月8日
長所 角が居角のまま使える。矢倉より駒組みの手順が柔軟。
短所 囲いが中央によっているので7筋からの攻めに弱い。また、下段も薄い。 pic.twitter.com/8x3Tj2oamo
上図は先手がそこそこ上手くいった序盤戦であると思う。
雁木の研究はこれから数年で一気に進む可能性もある。
▲4八金
初めてこの初手を見た時には意味不明だったが、最近角換わり腰掛け銀で▲4八金型が増えていることからもわかるように昔ほど悪い形という認識は無くなってきている感じはする。
むしろ有力な金の配置である可能性が高い。
しかし、だからといって別に初手に▲4八金型にする必然性はなく、この初手が今後主流になることはないだろう。
せっかくなのでこの初手も一局紹介する。
棋戦:将棋ウォーズ
先手:2016Pona
(初手からの指し手)
▲4八金 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲7六歩 △2二銀 ▲7八金 △3二金 ▲3三角成 △同 銀 ▲8八銀 △7二銀 ▲3六歩△8五歩 ▲7七銀 △7四歩 ▲3七桂 △6四歩 ▲5五角 △6三銀 ▲4五桂(下図)
初手に変わった手を指していても、手が進んでいくにつれ徐々に形が良くなっていくというのはponanza得意のパターン。
本譜は後手の飛車のコビンに隙が出来たのを見計らって▲4五桂速攻を決行した。
(上図からの指し手)
△5四歩 ▲3三桂成 △同 桂 ▲4六角 △9四桂 ▲8八金 △4四歩▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2九飛 △6二玉 ▲6八玉 △7三桂 ▲9六歩 △8一飛 ▲9五歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 桂 ▲8七歩(下図)
どうも後手の序盤の駒組みに危険があったようで、先手の攻めが成立したようだ。
冷静に後手の攻めを受け止めた上図は先手優勢である。
▲3八金
第二期電王戦2番勝負第一局でPONANZAが指して一躍有名になった初手。
私もネット将棋でたくさん指してみたがなかなか面白い初手であると感じている。
対振り飛車には右金を繰り出しての抑え込み、相居飛車では中住まいや左美濃+▲4六金型が有力である。
詳しくは以前に書いた記事を参考にしてほしい。
参考記事
www.fgfan7.comまとめ
その②では主に金銀を動かす9通りの初手をみていった。
なかなか良さそう、可もなく不可もなく、イマイチとそれぞれ見解は分かれたが、興味のある人はここで紹介したいろいろな初手を試してみるのも面白いと思う。
次回その➂では残りの初手を検証していきたい。