その2の続き
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ひたすら受ける
(上図からの指し手)
▲同 飛 △7六飛 ▲7七歩 △8九銀 ▲同 玉 △7七桂成 ▲7九香 △7八歩 ▲同 香 △同成桂 ▲同 金 △7七香 ▲6八金 △7九香成 ▲9八玉 △7八成香(下図)
鬼手△1七香の狙いは飛車を八段目の横利きから強制的にそらせることにある。
飛車の横利きを無くしての△8九銀が継続の攻めで玉を下段に落としてponanzaは寄せを狙った。
その後も互いにギリギリの攻めとギリギリの受けを駆使する。
上図最終手の局面で後手の攻め駒は飛・成香・持ち駒の桂・歩3枚である。
一般的には攻め駒は4枚あればつながるとされており、
持ち駒の歩を0.5と加味するとponanzaの攻めは3.5といったところか。
惜しくも足りないようだが、先手が一つでも間違うと攻めはつながってしまう。
しかし後手陣は△2二銀・△3一玉型がひどい形で粘れそうにない。
先手が受けきればelmoの勝ち、後手が攻めきれればponanzaの勝ちというある意味わかりやすい構図となった。
受けの妙技
(上図からの指し手)
▲7九香 △7七歩 ▲8六銀 △6八成香 ▲7七銀 △同飛成 ▲同 香 △7六歩 ▲7一飛 △5一桂 ▲7六飛成 △7八成香 ▲8九銀(下図)
前項でハッキリしたように攻めきるか受けきるかの攻防となった。
本項でのelmoの読み筋とponanzaの指し手はほぼ一致している。
コンピュータ将棋的には変化のしようがない一本道の手順なのだ。
だが、見ている側としてはハラハラドキドキだ。
そして上図最終手の▲8九銀が「打ち歩詰め」という将棋のルールを利用した受けの妙技。上図から△8八金▲同銀△8九銀▲9九玉(参考図)と進んだ時に△9八歩打が「打ち歩詰め」の禁じ手となり後手の負けとなる。
(参考図から△1五歩と突いて香を取りにいっても、以下▲7九歩△1六歩▲7八歩△1七歩成▲8九玉で逃れている)
▲8九銀の凌ぎによってelmoの評価値は+1002まで上昇。
後手の攻め駒は成香・持ち駒の金・銀・歩一枚とかなり細くなってきた。
しかしまだponanzaはここから妖しく迫っていく。
切らす技術
(上図からの指し手)
△7九銀 ▲8八桂 △7五歩 ▲8六龍 △8九成香 ▲同 玉 △6八銀不成▲7八玉 △6九金 ▲7六桂
(途中図)
△同 歩 ▲同 龍 △1五歩 ▲同 香 △同 香 ▲同 飛 △4一桂 ▲1八飛 △6三桂 ▲7二龍 △7九銀成 ▲8八玉(下図)
評価値的には先手優勢となったもののまだまだ予断は許されない局面が続く。
途中図の▲7六桂は自分の駒が逃げ道をふさいでいるので8八に逃げるルートを作った凌ぎの好手。
こういった受けの好手が続く将棋が次の一手ではなく実戦、しかも優勝決定戦で現れるのは見ているほうとしてもとても興味深い。
ponanzaは苦しいながらも△1五歩と突き、香の入手を図った。
しかし▲3三香の筋がある為、△4一桂とここに手放さざるを得なかった。
elmoは▲1八飛と八段目に飛車を受けに効かせ、△7五香を狙った△6三桂には▲7二龍とかわす。
ついにゴールが近づいてきた。
上部脱出
(上図からの指し手)
△1七香 ▲同 飛 △6八金 ▲8六歩 △9六銀 ▲8七角(途中図)
△同銀成 ▲同 玉 △6七金 ▲9六玉 △9四歩 ▲9五歩 △7八角 ▲8七銀 △6九角成 ▲7三香成 △7五桂 ▲9四歩(下図)
ponanzaは再び△1七香と打ち、飛車の横利きを無くすが、次第に攻め駒不足が目立ってきた。
△9六銀に対する▲8七角も好手。△同銀成 ▲同 玉 △6七金 ▲9六玉と進みついに上部脱出が見えてきた。
その後もponanzaは懸命に攻めを繋げようとするが、上図最終手の▲9四歩がその望みを打ち砕く受けの決め手となった。
新たなる歴史
(上図からの指し手)
△8七桂成 ▲9五玉 △5一金 ▲8四玉 △8六成桂 ▲7一龍 △5二金 ▲6三歩
(途中図)
△5一銀 ▲9三歩成 △1六歩 ▲3七飛 △2四歩 ▲8三玉 △2三銀 ▲6二歩成 △同 銀 ▲同成香 △同 金 ▲同 龍 (途中図)
△9六馬 ▲2四歩 △1二銀 ▲1五香 △8二歩 ▲同 玉 △1四香 ▲同 香 △6三馬 ▲1二香成 (途中図)
△4五馬 ▲2二金 △同 金 ▲同成香 △同 玉 ▲2三銀 △1三玉 ▲1四金(下図) まで195手で先手の勝ち
大勢は決したものの、勝負はまだ続く。
elmoは勝勢になってからも攻めを焦らず、まずは上部に玉を入り込み、安全にしてから決めに出た。
最後は見事に詰ましあげ、195手目▲1四金までで先手elmoの勝ちとなった。
elmoは2次予選で技巧に負けた1敗のみでの優勝。
大会前はあまり話題に上らなかったが、大会初日前日にfloodgateでの正体が判明してからは本大会で最も話題になったソフトであった。
終章
その1の序章でも記したように戦前予想では全勝優勝間違いなしと思われていたponanzaにelmoは2次予選、決勝リーグともに勝利し優勝という快挙を成し遂げた。
2次予選では後手番で横歩取り、決勝リーグでは先手番で角換わりという、今コンピュータ将棋界で注目度の高い戦型でponanzaに2連勝したことにも大きな価値があると思う。
実はその1を書いた後にわかったのだが、最終局でelmoは千日手でも優勝という立場であった。
よってponanzaの76手目の△1二香(下図)や、
88手目の△1七香(下図)は、
千日手を打開する苦肉の策だったのかもしれない。
事実はまだわからないが、今後その真相が判明することに期待したい。
第27回世界コンピュータ将棋選手権は今後のコンピュータ将棋を占う重要な位置づけになるかもしれない。
今後、コンピュータ将棋でディープラーニングの手法は確立するのか。
また、まふ定跡のきめ細やかな定跡の整備やHoneyWaffleの振り飛車定跡の可能性。
クラスタ編成のさらなる拡張。
そして、やねうら王チルドレン、Aperyチルドレンをはじめとしたライブラリ勢の躍進。
elmo式評価関数の学習方法など、まだまだコンピュータ将棋の進歩はとどまることをしらない。
半年後に将棋電王トーナメントが開催されるかはまだわからないが、もし開催されたなら本大会に続いて激戦が予想されるだろう。
今後も私なりの視点でコンピュータ将棋界を追い続けていきたいと思う。
参考書籍
本大会優勝決定戦でみせたelmoの受けの妙技の数々を習得したい方はこの本を何回も解いてみてほしい。
きっと受けに自信が持てるようになるはずである。
(観戦記 完)