はじめに
先日、DeepMind社によって公開された、AlphaZeroの棋譜は将棋ファンに大きな反響があった。
100局公開された棋譜はTwitterなどでも話題となり、AlphaZeroの指し手もたくさん共有されていった。
今回の記事ではその100局の中から、角換わり腰掛け銀新型同型の後手番一手パス戦略の将棋を検討していきたい。
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角換わり腰掛け銀新型同型、後手番一手パス戦略の実戦譜
動く将棋盤は以下のリンクから
先手elmo 後手AlphaZero 66局目
(初手からの指し手)
▲7六歩 △8四歩 ▲7七角 △3四歩 ▲7八銀 △7七角成 ▲同 銀 △8五歩(途中図)
後手:AZ 後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂v銀v金v玉v金v銀v桂v香|一 | ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二 |v歩 ・v歩v歩v歩v歩 ・v歩v歩|三 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四 | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六 | 歩 歩 銀 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ 金 玉 金 銀 桂 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:角 手数=8 △8五歩 まで
▲3六歩 △4二銀 ▲2六歩 △6二銀▲4八銀 △3二金 ▲7八金 △3三銀 ▲4六歩 △4二玉 ▲4七銀 △1四歩 ▲3七桂 △9四歩 ▲9六歩 △6四歩▲6八玉 △7四歩 ▲1六歩(途中図)
後手:AZ 後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・v銀 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・ ・ ・v歩v歩v銀v歩 ・|三 |v歩 ・v歩v歩 ・ ・v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五 | 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 歩|六 | ・ 歩 銀 歩 歩 銀 桂 ・ ・|七 | ・ ・ 金 玉 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:角 手数=27 ▲1六歩 まで 後手番
△7三桂 ▲4八金 △6三銀 ▲2九飛 △6二金 ▲6六歩 △5四銀 ▲5六銀 △8三飛
(途中図)
後手:AZ 後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・v飛v桂 ・v歩v歩v銀v歩 ・|三 |v歩 ・v歩v歩v銀 ・v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 歩 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七 | ・ ・ 金 玉 ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:角 手数=36 △8三飛 まで
▲2五歩 △8一飛 ▲7九玉 △5二玉 ▲8八玉 △4二玉 ▲7九玉 △5二玉 ▲8八玉 △4二玉 ▲4五桂(下図)
後手:AZ 後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v桂 ・v歩v歩v銀v歩 ・|三 |v歩 ・v歩v歩v銀 ・v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ 桂 ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:角 手数=47 ▲4五桂 まで 後手番
角換わり腰掛け銀で先後ともに▲4八金、△6二金と新型の同型にする将棋で、途中後手が△8三飛~△8一飛としたために後手が一手パスをした勘定となっている。
先手は▲8八玉型で▲4五桂と仕掛ける。この仕掛けはfloodgateやプロ公式戦でも前例のある仕掛けであり、私の著書でも紹介させていただいた。
参考書籍
▲4五桂に対しては①△4四銀と②△2二銀があり、私の著書では①△4四銀を本手順とした。floodgateやプロ公式戦でも①△4四銀と②△2二銀の両方が指されており、研究課題となっている。
今回のelmo-AlphaZeroの100局の将棋中、▲4五桂までの局面で同一局面が4局指されていた。(62局目、66局目、82局目、90局目、そのすべてが先手elmo、後手AlphaZero)
elmoの▲4五桂に対してAlphaZeroは4局とも②△2二銀を選択している。
△2二銀は次に△4四歩で桂馬を取り切ろうとする一手である。
(本譜局面図再掲)
後手:AZ 後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v桂 ・v歩v歩v銀v歩 ・|三 |v歩 ・v歩v歩v銀 ・v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ 桂 ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:角 手数=47 ▲4五桂 まで 後手番
(上図からの指し手)
△2二銀▲5五角 △同 銀 ▲同 銀 △3三桂 ▲同桂成 △同 銀 ▲6四銀 △4四歩(下図)
後手:AZ 後手の持駒:角二 桂 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三 |v歩 ・v歩 銀 ・v歩v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:銀 桂 歩 手数=56 △4四歩 まで
△2二銀に対しては①▲3五歩と②▲5五角があり、これもはっきりとした結論は出ていない。
実際、現在の最新ソフトでこの局面を検討させても▲3五歩と▲5五角がどちらがいいかは時間をかけて読ませても、どちらにも揺れ動いて安定しない。
66局目の本局ではelmoは②▲5五角を選択した。
(他の3局では①▲3五歩と指している)
▲5五角に対して△4四角と指すと、以下▲6四角△6三金に▲5五銀(参考図)という強手があり、先手優勢となる。
後手:後手 後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・v玉v金v銀 ・|二 | ・ ・v桂v金v歩v歩 ・v歩 ・|三 |v歩 ・v歩 角v銀v角v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ 銀 桂 ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:先手 先手の持駒:歩 手数=53 ▲5五銀 まで 後手番先手優勢(+988)
よって△同銀が最善手となり、▲同銀に対して△3三桂と跳ねるのが好手で、以下形勢は難解な中盤戦である。
(本譜局面図再掲)
後手:AZ 後手の持駒:角二 桂 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三 |v歩 ・v歩 銀 ・v歩v歩 ・v歩|四 | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:銀 桂 歩 手数=56 △4四歩 まで
(上図からの指し手)
▲4五歩 △9五歩 ▲4四歩 △8六歩▲同 歩 △4四銀 ▲5六桂 △4五銀 ▲7三銀成 △同 金 ▲6五桂 △8七歩(下図)
後手:AZ 後手の持駒:角二 銀 桂 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v金 ・v歩 ・ ・v歩 ・|三 | ・ ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・v歩|四 |v歩 ・ ・ 桂 ・v銀 ・ 歩 ・|五 | 歩 歩 歩 歩 桂 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・v歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:銀 歩三 手数=68 △8七歩 まで
先手の▲4五歩に対して△同歩と取ると、以下▲5五桂△5一桂▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲3四歩△同銀▲2四飛(参考図)
後手:後手 後手の持駒:角二 歩四 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・v桂 ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v桂 ・v歩 ・ ・ ・ ・|三 |v歩 ・v歩 銀 ・ ・v銀 飛v歩|四 | ・v歩 ・ ・ 桂v歩v歩 ・ ・|五 | 歩 ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・ 歩|六 | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手:先手 先手の持駒:銀 歩 手数=67 ▲2四飛 まで 後手番互角(+288)
という展開が考えられ難しい形勢。ただ、先手が攻勢をかける展開なので後手も苦労しそうではある。
本譜は▲4五歩に対して△9五歩と指した。
△9五歩に対しては▲同歩もあり、以下△7二桂や△7五歩が考えられる。
本譜は△9五歩に対して手抜いて以下、進んで△8七歩のくさびが入った。
(本譜局面図再掲)
後手:AZ 後手の持駒:角二 銀 桂 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・v玉v金 ・ ・|二 | ・ ・v金 ・v歩 ・ ・v歩 ・|三 | ・ ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・v歩|四 |v歩 ・ ・ 桂 ・v銀 ・ 歩 ・|五 | 歩 歩 歩 歩 桂 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・v歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉 金 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:銀 歩三 手数=68 △8七歩 まで
(上図からの指し手)
▲同 金 △6三金 ▲7二銀 △6七銀▲4三歩 △同 玉 ▲8一銀成 △9六歩 ▲9一成銀 △7八角 ▲7九香 △6九角打(下図)
後手:AZ 後手の持駒:桂 歩二 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | 全 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二 | ・ ・ ・v金v歩v玉 ・v歩 ・|三 | ・ ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・v歩|四 | ・ ・ ・ 桂 ・v銀 ・ 歩 ・|五 |v歩 歩 歩 歩 桂 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・ 金 銀v銀 歩 ・ ・ ・ ・|七 | ・ 玉v角 ・ ・ 金 ・ ・ ・|八 | 香 桂 香v角 ・ ・ ・ 飛 香|九 +---------------------------+ 先手:elmo 先手の持駒:飛 歩三 手数=80 △6九角打 まで後手有利(-588)
後手の△8七歩に対して先手が▲同金と取り、後手はいったん△6三金と、金を逃げる。
先手の▲7二銀は飛車金両取りで痛打のようだが、ここで「両取り逃げるべからず」の格言通りに△6七銀と打ったのがAlphaZeroの好手だった。
以下、後手は飛車を取られたものの、△7八角~△6九角打までで急所に駒が集まり、形勢は後手有利となった。(以下、後手AlphaZeroの勝ち)
先手としては▲4三歩は入れずに▲8一銀成とする手も考えられるところであった。
※以下の進行は↓から鑑賞してください。
まとめ
角換わり腰掛け銀新型同型、後手番一手パス戦略は現代将棋は後手番で苦労すると言われている中でも、かなり後手としては戦える部類の作戦である。
プロ間やfloodgateでも現在進行形で指されており、今後もさらに深いところまで研究が進んでいくことが予想される。
先手としては後手の一手パスに対して▲4五桂の仕掛け以外にも▲4五歩と模様を張る指し方も有力である。
また、▲4五桂△2二銀と進んだ局面で▲5五角以外にも▲3五歩という手も有力である。
参考棋譜
①elmo-AlphaZero 62局目(先手elmoの勝ち)
②elmo-AlphaZero 82局目(後手AlphaZeroの勝ち)
③elmo-AlphaZero 90局目(相入玉後手点数勝ち?)