はじめに
振り飛車に対する作戦としては持久戦が主流ではあるが、急戦も根強い人気がある。
その急戦策の中でも、最近徐々に注目され始めているのが△3一金型の急戦である。
今回の記事では△3一金型急戦の実戦からその構えの利点を探っていきたいと思う。
△3一金型の長所
まず、部分図で従来からある船囲いと△3一金型の違いを検証していきたい。
終盤戦で現れやすい下図の局面。
この局面で先手からは▲2二銀や▲2二香という手が寄せの手筋で、以下△同玉には▲4一龍がある。また、手抜いても次に▲2一銀不成や▲2一香成から攻めが続く形となっている。
先手の持ち駒がもう少し多ければ、いきなり▲3三香や▲3三銀と玉頭から駒を捨てて、以下△同桂には▲2一角や▲2一銀から一気に寄せてしまう手段もある。
このように船囲いは1段目に龍を作られていると寄せられやすい構えといえる。
次に△3一金型の部分図を見てみる。
△3一金型の場合、船囲いでは有効だった、▲2二銀や▲2二香には△同玉で何ら問題がない。
また、▲3三香のような筋にも△同桂と取っておけば▲2一角には△同玉があるため、先手は攻めになっていない。△3一金型は4二の銀と3一の金が連結がよいため、先手も簡単には攻めが決まらない。△3一金型は一見薄い構えのように見えるが、実際は思いの外、耐久力のある構えだといえる。
部分図で簡単な利点を把握したところで、△3一金型急戦の実戦例を見ていきたいと思う。
実戦例
↓動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/214702
開始日時:2018/09/06 07:00:00
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+NORMAL_FURIBISHA+GW-Delaytest_i9_7960X+20180906070002
先手:NORMAL_FURIBISHA
後手:GW-Delaytest_i9_7960X
(初手からの指し手)
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △4二玉 ▲7八飛 △1四歩 ▲1六歩 △7四歩(下図)
先手のノーマル三間飛車に対して後手から△1四歩と端歩を突いた。
このように急戦を志向する場合、ソフトは早い段階で端歩を突くことも珍しくない。
そして△7四歩も急戦含みの一手である。
(上図からの指し手)
▲4八玉 △8四歩 ▲3八玉 △8五歩▲7七角 △5二金右 ▲6八銀 △6二銀 ▲2八玉
(途中図)
△6四歩 ▲6七銀 △3二玉 ▲6八飛 △4二銀 ▲3八金 △7三桂▲7八金 △6三銀 ▲4六歩 △3一金(下図)
先手の三間飛車に対して後手は△6四歩で6筋からの攻めを見せた。
それに対して先手は▲6八飛と飛車の筋を変えて後手からの攻めに備える。
そして駒組みが進んでいき、後手は△3一金型に構えた。
後手としては駒組みは完成形に近く、ここからどのように攻めていくかが勝負となる。
(上図からの指し手)
▲5六銀 △9四歩 ▲4七銀 △5四銀 ▲3六歩 △4四歩 ▲3七桂 △6五歩(下図)
▲5六銀に対して一旦△9四歩と端歩を突いて様子を見る。先手は▲4七銀と銀を下げて守りを固めたが、ここで仮に▲4五銀と出た場合は、△3三銀として3四の歩を取らせないようにするのがよい。
後手は△5四銀と銀を腰かけてから、△4四歩と溜める。そして「頃合いよし」と△6五歩と仕掛けた。
(上図からの指し手)
▲4八銀 △4五歩 ▲同 歩 △6六歩 ▲同 角 △同 角 ▲同 飛 △5五角(下図)
▲4八銀に対して△4五歩と再度角筋を通したが、ここでは△8六歩と指し、以下▲同歩△6六歩▲同角△8六飛▲8七歩△8二飛のような展開も有力だった。
本譜は▲6六同飛に対して△5五角が飛車成を怖れない大胆な一手である。
(上図からの指し手)
▲6一飛成 △6二飛 ▲同 龍 △同 金▲4四角 △同 角 ▲同 歩 △4九飛(下図)
▲6一飛成に対して△6二飛が「この一手」の切り返し。
以下、飛角交換となったが、先手の▲4四角では▲7七角という手も考えられた。
(上図からの指し手)
▲7九飛 △同飛成 ▲同 金 △5五角 ▲7七角 △同角成 ▲同 桂 △5五角(下図)
▲7九飛では▲3九飛も考えられるが、以下△同飛成▲同金△6四角と進み難解な形勢。
本譜は二度の△5五角で桂香を取りに行った。
(上図からの指し手)
▲6八金 △4四角 ▲6三歩 △同 銀 ▲7一飛 △1五歩 ▲9一飛成 △1六歩 ▲1八歩 △4三歩(下図)
先手の▲6三歩に対しては△同金もあったが、▲6一飛と打たれるのが少し気になるところ。
よって本譜は△同銀。その後、端に手を付けてから一旦▲4六香の筋を防いで△4三歩と受けた。
(上図からの指し手)
▲5六角 △7九飛▲3四角 △9九飛成(下図)
先手は▲5六角と打ったが、後手も△7九飛で香車を取りに行くことができる。
▲3四角は急所の位置だが、後手の△9九飛成も大きな一手。
先手陣は端の狭さが気になる展開である。
(上図からの指し手)
▲4六香 △3三歩 ▲5六角 △5五角 ▲7五歩 △6一歩(下図)
▲4六香には△3三歩がしっかりした受けで後手は容易に崩れない。
△5五角と角を逃がした後に△6一歩の底歩がしっかりした受けで形勢が後手有利となった。
(上図からの指し手)
▲9四龍 △5四香 ▲7四歩 △1七歩成▲同 歩 △1八歩(下図)
まで86手で後手の勝ち
急転直下の終局となった。
▲9四龍に対して△5四香が狙いを秘めた一手で、▲7四歩に対して△1七歩成▲同歩△1八歩(終局図)が決め手となった。
投了図以下、▲同香には△7七角成▲同金△5六香が次の△1九角を見た非常に厳しい筋となっている。
まとめ
△3一金型急戦はまだまだ、振り飛車、居飛車ともに戦い方が体系化されていないので手探りの段階である。
ただ、急戦党の方は自分の作戦のレパートリーに取り入れると戦術の幅が広がり面白いと思う。
序文で述べたように、従来の船囲いとは攻められる筋にもその後の結論が変わってくるので自力で指し手を読む楽しみも多いと思う。
皆さんもぜひ、自分の対局で△3一金型を試してみてほしい。