はじめに
横歩取りは飛車、角が向き合っているので激しい展開になりやすい戦型だ。
その中でも特に後手からの△4五角戦法は一気に終盤戦になるほどの激しさがある。
アマチュア間では横歩取り△4五角戦法の人気は今もなお高く、定説では先手有利ながらしっかりと事前に研究していなければすぐに負けてしまう危険性がある。
今回の記事では将棋ウォーズのponanzaの棋譜を題材として△4五角戦法を避けつつも先手を有利に導く指し方について検討していきたいと思う。
ponanzaの実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/235050
開始日時:2018/03/10 13:09:22
棋戦:将棋ウォーズ(10秒将棋)
先手:PonaInfinity
後手:後手
(初期局面)
(初手からの指し手)
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲2四歩△同 歩 ▲同 飛 △8六歩▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛(下図)
15手目に▲3四飛と横歩を取って横歩取りの戦型が確定した。
ponanzaは横歩取りをあまり避けないソフトという印象がある。
(上図からの指し手)
△8八角成 ▲同 銀 △2八歩 ▲7七角(下図)
本局の後手は横歩取り△4五角戦法に誘導しようとしている。
よって△8八角成▲同銀△2八歩と攻めていく。
△2八歩に対しては▲同銀と取る手が最も多く、以下△4五角▲2四飛△2三歩▲7七角△8八飛成▲同 角 △2四歩 ▲1一角成(参考図)と進む。
▲1一角成の局面からは①△8七銀②△3三桂③△2五飛が有力手でそれぞれ深いところまで研究が進んでいる。
①△8七銀には▲同金や▲7七馬が考えられる。
②△3三桂には▲3六香や▲8八飛が有力手だ。
③△2五飛には▲2七歩や▲3九金で先手良し。
▲1一角成の局面は形勢的には先手がよい変化になりやすいが、後手からの変化も多くアマチュアの心理的にはこの展開を避けたいという人も多いのではないかと思う。
そこで本譜に戻る。
(本譜局面図再掲)
将棋ウォーズのponanzaは18手目△2八歩に対して▲同銀ではなく▲7七角と打った。
これに対しては△8八飛成と銀を取る手も考えられるが、以下▲同角△2九歩成▲1一角成△3九と▲同金(途中図)
△4五桂▲2一馬△3三歩▲1一飛△6二玉▲3六飛△5七桂成▲5八歩(参考図)と進むと先手が指せる展開となる。
よって後手は▲7七角に対して△8八飛成ではなく違う指し手を選んだ。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△7六飛 ▲2八銀 △3三歩 ▲8四飛 △8二歩▲2四飛(下図)
後手は▲7七角に対して△7六飛と歩を取った。
これに対しては冷静に▲2八銀と歩を払っておくのがよい。
たったこれだけの手順で後手からの△4五角急戦を防ぐことができた。
まさにコロンブスの卵のような手順である。
後手は自陣に歩を打って傷を無くそうとするが、冷静に▲8四飛~▲2四飛と指しておいて先手十分だ。
(上図からの指し手)
△2二銀 ▲6八玉 △7二金 ▲8七銀 △7四飛 ▲2六飛(下図)
ここからの先手の方針としては「じっくりした展開に持っていく」のがよい。
なぜならば、本局の後手は横歩取り△4五角を指したいと思って準備してきた→先手に違う変化に持っていかれた→方針がわからなくなってしまった
という状況だと推測させる。
急戦の変化を狙っていたのに、持久戦模様の将棋になってしまっては気持ちの面でやや落ち込むことだろう。
人間同士の対局ではこのような心理的な駆け引きも重要になってくる。
よって△7四飛の飛車ぶつけにも▲同飛とは取らずに▲2六飛と引いておく。
上図の局面は後手は対局前に想定した局面では違って戸惑っているはずだ。
(上図からの指し手)
△5二玉 ▲3六歩 △5四飛 ▲3七銀 △7四歩▲7六歩 △7三桂 ▲4六銀(途中図)
△7五歩 ▲同 歩 △8三歩 ▲3七桂 △9四歩 ▲2九飛 △9五歩 ▲4八金(下図)
47手目▲4八金まで進んでまだ本格的な戦いは始まっていないものの、すでに形勢は先手勝勢と言ってよい局面である。(ソフトの評価値は+1800ほど)
その理由としては、
・先手が無条件に2歩得している
・駒の配置は断然先手の方がよい
・大きく手得しており玉形も先手の方がよい
といった総合的な理由でソフトも先手がいいと判断しているのだろう。
本局の先手は後手が横歩取り△4五角戦法に誘導しようとしたのに対してうまくその展開を避け、自分の土俵に局面を持っていくことに成功した。
この将棋の総棋譜は以下から
横歩取り△4五角戦法を避ける有力な指し方のまとめ
・後手が△4五角戦法に誘導しようと△2八歩と打ってきたタイミングで▲同銀と取らずに▲7七角と打つのがponanza推奨の有力手。
・その後は後手が激しい展開にしようとしているのを察知し、その逆のじっくりとした展開に先手は持ち込んでいく。
・中盤までで総合的に有利なポイントを徐々に作っていく。本局は駒がぶつかる前に勝負アリ。
その他参考棋譜
その1
https://shogi.io/kifus/235057
その2
https://shogi.io/kifus/235058