はじめに
横歩取りは最近ではやや減少傾向にあり、その理由として先手からの青野流が優秀だからとされている。
しかしアマチュア間では今もなお、先手番で横歩取りの将棋を苦手とする方も多い。
それは横歩取りという将棋の性質が他の戦型とは違い、
・飛車角が向き合っているので激しい展開になりやすい
・後手から有力な急戦の作戦が複数ある
・指しこなすには実戦ではなかなか出てこない局面もカバーした知識が必要となる
といった要素が敬遠されやすい理由だと思う。
また、最近では3手目▲2五歩作戦や角道を早めに止めて雁木模様の将棋にする指し方も見直されてきており、それも横歩取りが少なくなる要因になっている。
しかし、先手番をもって堂々と横歩を取れるようになればそれだけでも水面下では心の余裕ができて自身の戦術の幅が広がっていくと私は思う。
今回の記事では相横歩取りという激しい戦法で今まであまり見られなかった指し方をfloodgateの棋譜を題材として見ていきたい。
相横歩取りの実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+AZUKI7+yuuki+20180929203003
先手:AZUKI7
後手:yuuki
(初期局面)
(上図からの指し手)
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲2四歩△同 歩 ▲同 飛 △8六歩▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛(下図)
15手目に▲3四飛と3四の歩を取り、横歩取りの戦型になった。
ここでは△3三角、△4一玉、△3三桂、△8八角成など後手からの有力手が複数ある。
先手は横歩を取ったからにはそのすべてにうまく対応できないといけない。
(上図からの指し手)
△8八角成 ▲同 銀 △7六飛(下図)
先手の▲3四飛に対して後手は△8八角成として急戦志向。
▲同銀に対しては△2八歩からの△4五角戦法や△3八歩と指す△3八歩戦法も有力である。
本譜は△7六飛と指していわゆる相横歩取り戦法に進んだ。
(上図からの指し手)
▲7七桂 △3三金 ▲8四飛 △8二歩(下図)
△7六飛の局面では先手は①▲7七銀②▲7七桂③▲7七歩が有力手である。
それぞれの手の特徴を簡単に記すと、
①▲7七銀は以下△7四飛▲同飛△同歩▲4六角と激しい変化になり、終盤のかなり深いところまで研究されている。
②▲7七桂は▲7七銀よりも比較的穏やかな進行となるので愛用する人も多い。
③▲7七歩は少数派の一手ながらマニアも存在し、一部では人気のある指し方。
代表的な一局としては電王戦のPONANZA対村山戦が挙げられる。
参考棋譜
ponanza vs. 村山慈明 電王戦FINAL第4局 - 無料の棋譜サービス 将棋DB2
本譜は②▲7七桂を選択し、以下△3三金▲8四飛△8二歩と進んだ。
ここまでは定跡化されている進行である。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲8三歩 △7二金▲8二歩成 △同 銀 ▲8五角(下図)
△8二歩の局面で先手の最も多い指し手としては▲6六角(参考図)がある。
▲6六角に対しては△4四歩、△4四角、△1二角、△8三角、△5二玉、△2六歩…等の候補手があり、なかなかすべての指し手に準備を用意するというのも難しいと思う。
評価値的には先手が+300~+400点ほど有利とソフトは判断するが実戦的には大変な面も多い。
そこで本譜は▲6六角ではなく、▲8三歩と打った。
これには飛車成を受ける意味でも△7二金の一手。
以下進んで▲8五角が先手期待の一手だ。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8三歩 ▲同飛成 △同 銀 ▲7六角 △2七飛 ▲6五角(下図)
▲8五角に対して①△2六飛と回るのは以下▲6三角成△8三歩▲7二馬△8四歩▲6三馬(参考図)と進んで先手優勢。
また、②△8六飛にも▲8七銀△同飛成▲同金△8三歩に▲6四飛(参考図)という好手があってこれも先手有利となる。
よって本譜は▲8五角に対して△8三歩と打ったが、▲同飛成~▲7六角で駒の損得はなしとなっている。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8二歩 ▲2八飛 △同飛不成▲同 銀 △5二玉 ▲5六角(下図)
▲6五角は次に▲8三角成~▲7一飛を狙っている。
▲6五角に対して△7四銀とするのは以下、▲同角△同歩▲7三歩と進んで先手好調である。
よって本譜は△8二歩と受けたが、いったん▲2八飛と受けてからじっと▲5六角と引いておく。
後手は歩を打てる筋が2筋しかないので攻めの手がかりがつかめない展開だ。
(上図からの指し手)
△3二金 ▲4八玉 △4二銀 ▲2四歩 △2六飛 ▲3八金 △2四飛 ▲3六歩(下図)
手を出せない後手は△3二金~△4二銀と陣形の整備をするが、先手の▲2四歩がポイントを稼ぎにいった手。
▲2四歩に対して△2二歩とすると▲1六歩(参考図)と指されるくらいでも後手の模様が悪い。
よって本譜は△2六飛~△2四飛としたが、先手だけ飛車を手持ちにしているので不満のない進行となった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△5四歩▲6六歩 △8四銀 ▲7六歩 △7四歩 ▲3七桂 △5五歩 ▲6七角(下図)
後手は△8四銀と上がり次に△7五銀の活用を目指したが、▲7六歩が冷静な好手で後手はこれ以上駒を前に進めることができない。
上図の▲6七角の局面は、
・ 先手が飛車を持ち駒にしているのでタイミングの良い時に飛車を打ち込める
・左右の桂馬を中央に跳ねて攻めていく筋がある
・後手は5筋が薄く駒組みに苦労する
といった要因があり先手有利(+417)の中盤戦となった。
この将棋の総棋譜は以下から
相横歩取り▲8三歩のまとめ
相横歩取りはプロ公式戦でこそほぼ指されていないものの、 先手番で横歩を取ったからにはその対策を用意しておかないといけない戦法である。
アマチュア間では今もなお根強い人気のある戦法で、その理由としては後手から変化する分岐が多く、研究勝ちできる変化も多いからであろう。
その中、先手としても後手の研究にハマって負けるわけにはいかない。
そこで本記事で紹介した▲8三歩は有力手段である。
▲8三歩に代えて▲6六角の変化は次の一手が後手にとって有力手がたくさんあったが、▲8三歩を選択するとこちらの意図した展開に誘導しやすい意味合いがある。
本局は比較的穏やかな展開となったが、駒の配置や模様が先手のほうがよいので自然と作戦勝ちとなった。
相横歩取りに苦しめられている方にはぜひ一度指してみてほしい指し方だ。