はじめに
最近の将棋の考え方として居飛車・振り飛車という垣根を超えて局面を柔軟に捉えていくという思想が広まってきているように感じている。
私自身も居飛車党ではあるが、ネット将棋を中心として振り飛車を採用することも少しではあるが増えてきた。
今回の記事では、中盤戦における振り飛車のバランスを考えた構想について検討していきたい。
実戦例
↓動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/211514
開始日時:2018/09/28 22:30:01
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+orqha-ryzen+F13+20180928223001
先手:orqha-ryzen 後手:F13
(初手からの指し手)
▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲4八銀 △2二飛 ▲6八玉 △6二玉 ▲7八玉 △7二玉(下図)
後手のF13は振り飛車党のソフトで、マシンスペックの高さもあってかfloodgateで高勝率をマークしていた。本局では先手の3手目▲2五歩に対して向かい飛車にした。
(上図からの指し手)
▲9六歩 △9四歩▲3六歩 △4二銀 ▲5六歩 △8二玉 ▲5八金右 △5四歩 ▲5七銀 △4四歩 ▲7六歩 △7二銀 ▲7七角 △4三銀▲8八玉 △3二金 ▲7八銀
(下図)
ここまでは先手の左美濃に対して後手の向かい飛車△3二金型でよく見かける進行である。
(上図からの指し手)
△2四歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲2五歩 △2二飛 ▲4六歩 △4二角 ▲3七桂 △3三桂
▲8六歩 △2一飛(下図)
後手は△3二金型に組んだので、△2四歩から仕掛けていきたいところ。
対する先手は飛車交換をする指し方も考えられたが、本譜はその変化を自重し、再び駒組みが続いていった。
(上図からの指し手)
▲6六銀 △6四歩 ▲6八角 △6五歩 ▲7七銀引 △6三銀 ▲8七銀(下図)
先手は▲6六銀~▲7七銀と右銀を自陣に引き付け、さらに▲8七銀から銀冠にする。対する後手は銀冠にはせずに△6三銀とバランスを重視した。
(上図からの指し手)
△7四歩 ▲2四歩 △7三桂▲2九飛 △7二金 ▲7八金 △1四歩
(途中図)
▲9八香 △2五歩 ▲同 桂 △2四飛 ▲2六歩 △2一飛 ▲3三桂成 △同 金▲2五歩 △2三歩(下図)
先手は▲9八香からさらに堅陣の銀冠穴熊に組もうとする。
対する後手は2筋で桂交換を果たした。桂を持ち駒にすることで将来の攻め筋を増やすことができる。
(上図からの指し手)
▲6六歩 △同 歩 ▲同 銀 △6五歩 ▲5七銀 △8四歩 ▲6七金右 △6一飛 ▲6六歩 △同 歩▲同 銀 △6五歩 ▲7七銀(下図)
先手は▲6六歩と突いて一歩を手にしたが、ここでは▲9九玉と穴熊にする手も考えられた。後手は一貫して△6五歩と打ち6五に拠点を作っておく。
将来駒が入れば、6六の地点に打ち込んで敵陣を崩しにかかることができる。
さて、75手目▲7七銀の局面でここから後手の狙いが明らかとなる。
(上図からの指し手)
△7一玉 ▲5九角 △6二玉 ▲5七桂 △5二玉 ▲2六角 △8一飛(下図)
後手が△7一玉→△6二玉→△5二玉と中央まで玉を移動させたのが狙いの構想であった。こう進むと、後手の4三の銀と3三の金が守りの駒として機能していることがわかる。そして玉を移動したことによって8一の飛車が先手玉の玉頭を狙える構えとなっている。
先手陣は堅いが、駒が偏っているとも捉えることができる。
中盤戦で玉を移動させる手法はプロ棋士間でも佐藤和俊六段らによって試行錯誤されている。
(上図からの指し手)
▲4五歩 △同 歩▲4九飛 △4四金 ▲4五桂 △8五歩 ▲同 歩 △3五歩 ▲同 歩 △4一桂 ▲4六歩 △8五桂(下図)
先手は4筋から攻めようとするが、攻め駒が飛車、角、桂馬の3つしか参加していないため攻め切ることができない。よって▲4六歩と収めるしかないが、後手は△8五桂と跳ねることができた。後手としては不満のない中盤戦となった。
(上図からの指し手)
▲8六銀右 △9五歩▲7五歩 △同 歩 ▲8四歩 △7四銀 ▲9五歩 △7三金 ▲9四歩 △6一飛 ▲6八金引 △6六歩(下図)
▲8六銀右に対して後手は△9五歩と端にも手を付ける。
仮にここで▲同歩と指すと以下、△9七歩 ▲同 香 △同桂成 ▲同 銀 △8六歩
(参考図)
と進み、後手の玉頭攻めが決まる。
よって先手は▲7五歩からなんとかしのごうとするが、後手が6筋に攻め筋を変えたのが好着想となり形勢は後手が有利となった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲3四歩 △9七歩▲同 香 △3五歩 ▲3三歩成 △同 桂 ▲6四歩 △同 飛 ▲6五歩 △同 飛 ▲3三桂不成△9七桂成 ▲同 桂 △8五歩(下図)
先手は3筋から攻めようとするが、いったん△3五歩と受けておくのが冷静な一手で後手陣がつぶれることはない。
その後の先手の▲3三桂不成ではまだしも▲3三桂成だったが、それでも後手の方が形勢が良いことには変わりはない。
(上図からの指し手)
▲同 桂 △同 銀 ▲同 銀 △7六桂 ▲同銀上 △同 歩 ▲同 銀 △9五飛 ▲7五歩 △8六香 ▲8七桂 △同香不成▲同 玉 △8六歩 (下図)
後手の快調な攻めが続く。先手の銀冠は横からの攻めには強いが、本局のように玉頭から押しつぶされるような指し方には案外、脆さが出やすい。
(上図からの指し手)
▲同 玉 △9四香 ▲7七玉 △8六銀 ▲6六玉 △7五銀 ▲5七玉 △7六銀(下図)
以下、後手の攻めがつづく局面となり、後手の完勝となった。
まとめ
先手が左美濃から銀冠した局面で後手は木村美濃から玉を中住まいに移動し、バランス重視の構えを取った。
これは、堅さに対してバランスで対抗しようという考えで近年の居飛車対振り飛車の対抗形の将棋では戦略の一つとして認知されてきているものだ。
はじめは振り飛車ではあるが、局面が進むにつれて居飛車のような感覚が求められる将棋も増えてきており、今後は居飛車・振り飛車の垣根を超えた指し方がより研究されていくと考えている。
参考書籍
記事中でも触れた佐藤六段による戦術書です。
三間飛車から袖飛車に振り直し、雁木に組むという新しい感覚の指し方等が解説されています。
西尾六段によるコンピュータ将棋の総合の解説書です。
バランス感覚を重視した、振り飛車の新しい指し方にも触れています。