コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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将棋入玉のコツ~上部に逃げるテクニック!~

はじめに

入玉模様の将棋をコンピュータ将棋は一時期苦手にしていた時期もあったが、ここ数年の間でその弱点を克服し、むしろ今のソフトは入玉模様を得意としているようにも感じられる。

その中でも特に強豪ソフトのelmoは入玉を得意としているように感じられる。

以下、elmo開発者瀧澤さんのツイート。

2017年5月にelmoはフリーで一般公開されたが、それに伴いその他の強豪ソフトも入玉模様の将棋を得意としていったように思う。

今回の記事ではfloodgateの棋譜を題材として入玉をうまく成功させた将棋を見ていきたい。

floodgateの実戦例

動く将棋盤は以下のリンクから

https://shogi.io/kifus/234977

開始日時:2018/06/08 06:00:01
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+Calico_Cat_book-NNUEvar0.101+gikou2_1c+20180608060002
先手:Calico_Cat_book-NNUEvar0.101
後手:gikou2_1c

(初手からの指し手)

▲7八飛 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩 ▲6六歩 △4二玉 ▲1六歩 △3二玉 ▲1五歩 △3三角▲4八玉(下図)

f:id:fg_fan7:20190127191838j:plain

先手は初手▲7八飛から三間飛車に。

対する後手は△3三角と上がり持久戦志向となった。

(上図からの指し手)

△6二銀 ▲3八玉 △2二玉 ▲6八銀 △5二金右 ▲5八金左 △1二香 ▲6七銀

(下図)

f:id:fg_fan7:20190127192230j:plain

後手は△1二香と上がり居飛車穴熊を目指す。

対する先手は▲1五歩の端の位を取ったのと▲6七銀型に組んだのが作戦の岐路。

(上図からの指し手)

△1一玉 ▲5六銀 △2二銀▲4五銀 △8四飛 ▲6七金 △4二金寄 ▲8八飛(下図)

f:id:fg_fan7:20190127192836j:plain

後手が△1一玉~△2二銀と囲いを収めたのに対して先手は▲5六銀~▲4五銀と揺さぶりをかける。

3四の歩を守るために後手は△8四飛と浮くが、先手の▲6七金~▲8八飛が面白い動き。

自玉が薄くなるが盤上全体のバランスを考えた構想である。

(上図からの指し手)

△9四歩 ▲5九金 △3一金 ▲6五歩(下図)

f:id:fg_fan7:20190127193315j:plain

後手の△9四歩に対して先手の▲5九金がバランス重視の構想に沿った一手。

▲5九金に代えて▲2八玉から先手が美濃囲いに組むのも一局だが、以下△3一金▲3八銀△5一銀▲6五歩△5二銀(参考図)と進むと後手陣が引き締まっており、強い戦いは後手にとって歓迎である。

f:id:fg_fan7:20190127193851j:plain

後手陣に比べて先手陣の薄さが気になる展開。

よって本譜は▲5九金と寄ってから▲6五歩と角道を開けた。

(本譜局面図再掲)

f:id:fg_fan7:20190127193315j:plain

(上図からの指し手)

△7七角成 ▲同 桂 △3五歩▲6八金上 △8二飛 ▲8九飛(下図)

f:id:fg_fan7:20190127194250j:plain

△3五歩の局面で▲6八金上と指したのが面白い動き。

先手の金がどんどん自玉から離れていくが、最近のコンピュータはこのようなバランス重視の構えをとることも増えてきている。

それに対して後手はいったん△8二飛と飛車を引き上げ、先手も▲8九飛と下段飛車にした。

(上図からの指し手)

△3三金 ▲9六歩 △5一銀 ▲5六銀 △4二銀 ▲4八銀(下図)

f:id:fg_fan7:20190127200918j:plain

後手は居飛車穴熊を強固なものにするために金銀を密集させていく。

対する先手は堅さよりもバランスの方針。

この先後による方針の違いが本局の結末の伏線となった。

(上図からの指し手)

△3四金 ▲5五銀 △4四歩▲5六歩 △4五歩 ▲6六銀(下図)

f:id:fg_fan7:20190127201314j:plain

後手は△3四金型に組み、2~4筋が手厚い構えとなった。

対する先手は6筋の金銀の並びが美しい。

両者主張のある展開となった。

(上図からの指し手)

△4四金 ▲7五銀 △5四金 ▲6一角 △4三角 ▲同角成 △同 銀 ▲5七銀(下図)

f:id:fg_fan7:20190127201812j:plain

先手の▲6一角に対して△4三角と受けたのは好手。

先手の▲5七銀はさらに自陣は薄くなるが、やはりバランス重視の考えに沿った一手だ。

ここまで先手は方針が一貫している。

(上図からの指し手)

△3四銀▲4八銀 △2五銀 ▲6六銀 △3六歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲3七歩 △2五銀 ▲5五銀(下図)

f:id:fg_fan7:20190127202500j:plain

後手の△3四銀では△3二飛と回る手も魅力的だが、そこで▲6一角という手が少し気になる。

よって本譜は△3四銀。

次に△2五銀が見えているので先手も▲4八銀と銀を引く。

そして数手後の▲5五銀が先手期待の一手。

(上図からの指し手)

△同 金 ▲同 歩 △4六歩▲同 歩 △7四歩 ▲5七金打(下図)

f:id:fg_fan7:20190127202905j:plain

金銀交換の後に後手が△4六歩▲同歩△7四歩としたのには狙いがあり、次に△7五歩▲同歩△7六歩の筋を狙っている。(▲同金には△5六角が王手飛車取り)

先手はどう指すかといった局面だが、ここで▲5七金打!が手厚い一手だった。

のちの△5六角の筋を防いでいる。

(上図からの指し手)

△7五歩 ▲同 歩 △4二飛 ▲5四歩 △同 歩 ▲5三角 △3二飛 ▲4四角成(下図)

f:id:fg_fan7:20190127204843j:plain

△7五歩~△4二飛で次に後手からは△3三桂~△4五歩のような攻め筋が考えられる。

先手もうかうかとはしていられないので▲5四歩~▲5三角として馬を作りに行った。

入玉将棋の第一歩として馬を作るのは手厚い形を作る上で重要な要素のひとつである。

(上図からの指し手)

△8六歩▲同 歩 △7六歩 ▲同 金 △9五歩 ▲3九飛 △9六歩 ▲4三馬(下図)

f:id:fg_fan7:20190127210137j:plain

後手も先手に馬を作らせておいて黙っているわけにはいかないので△8六歩~△7六歩~△9五歩と攻め味を見せる。

△9五歩に対して▲同歩と取ると△同香が厳しい狙いとなる。(以下▲同香には△9八角)

よって先手は△9五歩に対して ▲同歩とは取らずに▲3九飛と回った。

▲3九飛では▲5四馬も有力手ではあったが本譜でも問題はない。

その後、▲4三馬として後手にプレッシャーをかけた。

(上図からの指し手)

△3五飛 ▲2六歩 △同 銀 ▲2七歩 △1五銀▲3六歩 △同 飛 ▲3七銀(下図)

f:id:fg_fan7:20190128075540j:plain

後手は銀取りと飛車を逃げる意味で△3五飛が最善。

先手の▲2六歩に対しては△3四銀と引く手も有力で以下、▲5四馬△4五歩(参考図)と進むのが一例。

f:id:fg_fan7:20190128080206j:plain

難解な形勢ながら先手の馬が手厚いので若干先手持ち。

本譜は▲2六歩に対して△同銀と取ったが、その後の▲2七歩△1五銀の交換は端に銀を追いやった先手がポイントを上げた。

さらに▲3六歩~▲3七銀で後手の飛車にプレッシャーをかける。

(本譜局面図再掲)

f:id:fg_fan7:20190128075540j:plain

(上図からの指し手)

△同飛成 ▲同 玉 △3二銀 ▲5四馬 △3六歩 ▲4七玉 △2八角 ▲6九飛(下図)

f:id:fg_fan7:20190128080721j:plain

▲3七銀に対する△同飛成は本局の後手にとってはじめてといえる疑問手。

以下進んで△3二銀の局面で▲5四馬と引けたのが大きく先手有利となった。

後手としては▲3七銀の局面で△3二銀とするのがよく、以下▲5四馬ならそこで△3四飛と引くことができた。

本譜は先手の馬が好位置で入玉が狙えるコースとなってきた。

(上図からの指し手)

△1九角成▲7一飛 △5三歩 ▲同 馬 △5一歩 ▲6三馬 △6七歩 ▲同金上 △2四銀 ▲5六玉 (下図)

f:id:fg_fan7:20190128081642j:plain

形勢は先手有利となったものの、まだまだ後手も勝負手を繰り出してくる。

△5三歩~△5一歩は粘り強い指し回しで△5一歩に対して▲同龍と取ると△4二銀打(参考図)から大駒を強引に取られる手が少し気になる。

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大駒を持ち駒にすると後手にも楽しみが出てくる。

よって△5一歩には▲6三馬が冷静な一手。

以下、▲5六玉でいよいよ入玉を目指していく。

(本譜局面図再掲)

f:id:fg_fan7:20190128081642j:plain

(上図からの指し手)

△7八銀 ▲6八飛 △2九馬▲6六玉 △6七銀成 ▲同 飛 △3九馬 ▲8一飛成 △3五銀 ▲7四歩 △4六銀 ▲7五玉 △5七銀成 ▲6九飛(途中図)

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△4八馬▲7三歩成 △6八成銀 ▲6六桂 △6九成銀 ▲9一龍 △5八馬 ▲8五銀

(下図)

f:id:fg_fan7:20190128083956j:plain

先手の方針としてはあとは入玉を目指すのみ。

一気に敵陣を目指して上部を開拓していく。

ポイントとしては相手の8一の桂と9一の香を取ってしまうことで、左上のゾーンを手厚くしてしまえばそこに玉が入れれば安泰となる。

本譜は飛車は取られたものの、それ以上に上部が安定しているのが大きい。

(上図からの指し手)

△7二歩 ▲同 馬 △5二飛 ▲6二と △5七飛成▲9六香 △7六馬 ▲同 銀 △7七龍 ▲8四玉 △7六龍 ▲7四歩(下図)

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入玉の将棋では馬と龍の価値は非常に高い

点数計算でも大駒は5点で計算するほど価値が大きく、また馬や龍は一マス分はすべてに利きがあるので接近戦にも強い。

よって馬を守るといったテクニックも重要となる。

本譜は△5二飛に対して▲6二とで馬を取られるのを防いだ。

その後、駒はぼろぼろと取られたが、上部への逃げ込みはほぼ確実なものとなった。

(上図からの指し手)

△8六龍 ▲8五歩 △7一歩 ▲同 と △6六龍▲7三歩成 △6五龍 ▲6三歩 △5三桂 ▲6二歩成 △9五歩 ▲同 香(途中図)

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△7六龍 ▲8三玉 △8五龍 ▲8四歩 △7五銀▲7四と △1四歩 ▲6四歩 △8二歩 ▲同 馬 △7六銀 ▲6三歩成(下図)

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入玉した後に大事なことは歩を垂らしてと金をたくさん作ることである。

と金は入玉模様の将棋ではかなり価値が高い。

理由としてはよく言われているように、と金を相手に取られても歩なのでその後、相手は取った歩を入玉の将棋ではうまく活用できないからだ。

本局も先手はと金を4枚作って鉄壁となり、また龍と馬ができているので絶対捕まらない形となった。(以下、先手勝ち)

この将棋の総棋譜は以下から

将棋入玉のコツのまとめ

・最近のコンピュータ将棋ソフトは以前は弱点とされた入玉模様の将棋をむしろ得意とするようになりつつある。

・まずは馬を作るのが第一歩。その後入玉するまでは丁寧な指し回しを心掛ける。

・入玉の将棋では大駒の価値が高い。安易に相手に取らせないようにする。

またと金を作るのも大事。じっくり上部を開拓していこう。

参考棋譜

https://shogi.io/kifus/234983

開始日時:2019/01/27 06:30:00
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+Master+gikou2_1c+20190127063000
先手:Master
後手:gikou2_1c

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参考書籍

わかりやすい解説に定評のある杉本七段による入玉を専門にした異色の戦術書。

入玉形を得意にすることによって終盤の競り合いに強くなることの重要性がまえがきで書かれている。

序章で入玉戦の考え方を説明し、その後は守りの手筋、攻めの手筋、双玉の手筋、点数を稼ぐ手筋、実戦形の手筋、次の一手が章ごとに解説されている。

入玉形独特の考え方にそった指し手も多いが、本書を読破することで終盤力が向上するのは間違いないだろう。