はじめに
ゴキゲン中飛車は長らくの間、後手番振り飛車党の間でエース戦法として活躍し、タイトル戦などの大舞台でもたびたび指されてきた。
ゴキゲン中飛車に対する先手の初期の対策としては、
・丸山ワクチン(角交換型)
・▲4七銀型急戦
・▲7八金型
・▲5八金右急戦
などのような作戦がとられていたが、実戦や研究が進むにつれて後手が互角以上に戦えることがわかってきた。
その後、先手は「打倒ゴキゲン中飛車」として、
・糸谷流右玉
・一直線穴熊
などの作戦を編み出していったが、それでもゴキゲン中飛車の牙城を崩すことができなかった。
その中、ついに最終兵器として対ゴキゲン中飛車で有力視されてきたのが超速▲3七銀戦法だった。
超速は従来の対ゴキゲン中飛車よりも居飛車側の勝率が高く、また展開によって急戦と持久戦を使い分けることができるのも人気となる要因だった。
今回の記事ではゴキゲン中飛車対超速▲3七銀戦法の攻防を後手の△4四銀型に対する先手の急戦策の将棋で見ていきたい。
ゴキゲン中飛車対超速▲3七銀戦法の実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
棋戦:wdoor+floodgate-900-0+AWAKE_i7_5960X_8c+GPSFish_3630QM+20141101173004
先手:AWAKE_i7_5960X_8c
後手:GPSFish_3630QM
(初期局面)
(初手からの指し手)
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △5四歩 ▲2五歩 △5二飛(途中図)
▲4八銀 △5五歩 ▲6八玉 △3三角 ▲3六歩 △4二銀▲3七銀(途中図)
△5三銀 ▲4六銀 △4四銀(下図)
先手が▲6八玉型で右銀を3七~4六へ繰り出すのが超速▲3七銀戦法の出だし。
対する後手は先手の3七~4六の銀の動きに合わせて左銀を5三~4四と活用する。
この4六と4四の銀の向かい合わせの形を銀対抗型と呼ぶ。
(上図からの指し手)
▲7八銀 △6二玉 ▲7七銀 △7二玉 ▲6六銀 △8二玉 ▲7八玉 △7二銀▲5八金右(下図)
先手は▲6八玉型で▲7八銀~▲7七銀~▲6六銀と活用したのが工夫の順。
一手早く▲6六銀型を作ることで中央を安定させようとしている。
▲7八銀に代えて▲7八玉とすると、以下△6二玉▲6八銀△7二玉▲7七銀△5六歩▲同歩△同飛▲5五歩△同銀▲4五銀△5七飛成▲5八金右△5六銀▲5七金△同銀成▲6六銀△6五金(参考図)と進む順が先手としては気になる。
これはこれで難しい勝負だが、避けられる変化なら避けたいところなので先手は▲7八銀を選択し、以下駒組みが進んだ。
参考図までの手順の参考書籍
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△6四歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲3七桂 △3二金 ▲4五桂 △2二角 ▲2四飛 △2三歩▲2九飛(下図)
後手の△6四歩では△5一飛(参考図)
も有力で、最近出版された戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車では△5一飛が本線の指し手となっている。
参考書籍
本譜は後手の△6四歩に対して▲2四歩と一本突き捨ててから▲3七桂と跳ねた。
そして△3二金には▲4五桂と仕掛けていった。
▲4五桂に対して△5一角は指しにくい。
以下、▲5五銀左△同銀▲同銀(参考図)と進むと先手から▲4一銀の筋が残っているのが大きい。
よって本譜は▲4五桂に対して△2二角と引き、先手も飛車先の歩を取ってから▲2九飛と下段に飛車を引いた。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△9四歩▲9六歩 △1四歩 ▲6八金上 △5一飛 ▲7七角 △3三桂 ▲同桂成 △同 角▲3九飛(下図)
9筋の端歩の突き合いはどちらが得になるかは難しいが、先手としては端攻めが可能となるので突き合っておく。
そして△1四歩には相手をせずに▲6八金上が中央を厚くする味の良い駒の活用で、続く△5一飛にも▲7七角として陣形を整える。
▲7七角に対して△7四歩とすると先手は▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲9五香△9四歩▲同香△同香▲9五歩(参考図)として端から強引に手を作って先手有利。
よって▲7七角には△3三桂として桂馬を捌きにかかったが、桂交換後に先手も▲3九飛として3筋に攻めの照準を合わせる。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△4二金 ▲3五歩 △同 歩▲9五歩 △同 歩 ▲3四歩 △2二角 ▲3五銀(下図)
先手の▲3九飛に対して後手から△5四桂という銀の両取りが見えるが、以下▲5五銀左△4六桂▲同銀△6五銀▲8八桂(参考図)としっかり受けられてみると、これ以上後続の攻めがなくなってしまう。
よって後手は▲3九飛に対して△4二金と待機する。
先手はここから▲3五歩、▲9五歩と攻めていく。
△9五同歩の局面は分岐点で▲3五銀とシンプルに攻めたくもなるが以下、△同銀▲同飛△8五銀(参考図)と進むと後手も戦える。
よって先手は一回▲3四歩と拠点を作ってから▲3五銀と出ていった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△3二歩 ▲4六銀 △9六歩 ▲9四歩 △1三角 ▲2九飛 △5六歩▲2三飛成(下図)
先手は3四に拠点を作ってから▲3五銀と出た。
▲3五銀に対して前述のように△同銀▲同飛△8五銀とすると、今度は▲2五飛(参考図)とする手が生じて先手がよくなる。
したがって後手は▲3五銀に対して△3二歩と辛抱したが、じっと先手も▲4六銀と引いておいて不満がない進行となった。
以下は△9六歩に対して▲9四歩が急所で、もし△同香なら▲8六桂(参考図)が厳しくなる。
以下、本譜は先手が飛車を成ることに成功して優勢となった。
(本譜局面図再掲)
この将棋の総棋譜は以下から
ゴキゲン中飛車対超速▲3七銀戦法の攻防のまとめ
ゴキゲン中飛車は振り飛車党にとって長らく後手番のエース戦法だったが、現在は今回の記事で検討してきた超速▲3七銀にやや苦戦している。
先手の二枚銀の形からの攻めが手厚さと厳しさを兼ね備えており、また先手から9筋の端攻めが常に狙い筋となる。
ゴキゲン中飛車側としては囲いを木村美濃にしたり、△5一飛を早めにする等の工夫をして、なんとか超速と対等に戦える手段を模索している段階である。
今後もゴキゲン中飛車対超速▲3七銀戦法の戦いに注目していきたい。
参考書籍
以下の2冊は超速▲3七銀戦法を知る上で非常に有益な棋書。
特に、戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車は本記事を執筆する際に大変参考になった。