はじめに
振り飛車の中でも中飛車は振り飛車側が主導権を握る展開になりやすく、プロアマ問わずに人気のある戦法だ。
その中飛車の使い手として安定した成績を残している戸辺誠七段が新刊を出版した。
それが「戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車」である。
目次は以下のようになっており、後手のゴキゲン中飛車と先手中飛車を扱っている。
戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車 目次
第1章 超速▲3七銀対△4四銀型~△7二銀基本編~
第1節 シンプルな仕掛け▲4五桂
第2節 ▲2九飛型からの仕掛け
第3節 ▲9六歩・▲2九飛型からの仕掛け
第2章 超速▲3七銀対△4四銀型~△7二金応用編~
第1節 ▲9六歩・△9四歩型からの仕掛け
第2節 △1四歩カウンター
第3節 新しい仕掛け▲4五桂+▲3八飛
第3章 超速▲3七銀対△4四銀型~持久戦・穴熊編~
第1節 相穴熊~基本となる手順~
第2節 相穴熊~△6二飛型~
第3節 相穴熊~角交換型~
第4節 対▲6八金型穴熊
第4章 先手中飛車対△4二銀急戦
第1節 ベースになる考え方
第2節 対△5四歩の反発~△7三桂急戦~
第3節 対△5四歩の反発~△5三銀右型~
第4節 対△7四歩・△7三銀急戦
第5章 先手中飛車対角道不突き急戦
第1節 対△6四銀+左美濃~基本版~
第2節 対△6四銀+左美濃~進化版~
第3節 対△7三桂・△1三角型
第4節 対△7三桂~工夫版~
第5節 対△7二飛急戦
第6章 先手中飛車、角交換型
コラム1 本を活用した上達法
コラム2 音楽とスポーツ
コラム3 新構想はうっかりから?
コラム4 加瀬師匠と一門
今回の記事では「戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車」を読む際のポイントをまとめていきたい。
超速▲3七銀対ゴキゲン中飛車△4四銀型のポイント
現在、ゴキゲン中飛車に対して最有力とされているのが超速▲3七銀戦法である。
参考記事
本書では超速への対抗手段として戸辺七段推奨の△4四銀型にしぼって解説されている。
以下戸辺七段の文章より引用する。
近年の私が愛用している 指し方で、今回自信を持って紹介させていただくのが△4四銀と対抗する形である。銀で角頭を守っておけば、簡単に攻略されることがなくなるので、振り飛車側も玉をしっかり囲うことができる。将棋を指す上で玉を守るというのは一番の基本だし、無駄なく構えてカウンターを狙うというのは、ゴキゲン中飛車のコンセプトとも合っていると思う。(p7~p8より)
と書かれているように、戸辺七段が本書において後手番では△4四銀型、先手番では▲6六銀型を多くの展開で推奨している。
超速▲3七銀対ゴキゲン中飛車△4四銀型のポイントとして、将棋倶楽部24に常駐している強豪ソフトのHefeweizenの棋譜から検討していきたい。
動く将棋盤は以下のリンクから
棋戦:R対局(早指2)
先手:先手(2728)
後手:Hefeweizen(3295)
上図の局面は「戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車」の第1章、第3節 「▲9六歩・▲2九飛型からの仕掛け」でも解説されている局面だ。
先手の▲2九飛はのちの△3七角に備えた一手。
(上図からの指し手)
△2二角 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩▲2九飛 △6四歩(下図)
戸辺七段の著書では▲2九飛に対してまずは、△1四歩と指す手が解説されている。
その後に△1四歩に代わる一手として△2二角が解説されており、戸辺七段曰く、
(前略)、まさに秘伝の△2二角だ。私もここにたどり着くまでに△6四歩や、9筋の端歩を受けないパターンなど試行錯誤の連続だったが、この手順が一番シンプルで後手も戦えることに最近気づいた。ただ、見よう見まねで△2二角と引くのではなく、経験と苦労によって蓄積された分、深みは増したかなと思っている。(p49より)
と語っているように△2二角は戸辺七段の試行錯誤によって導きだされた一手でそれを強豪ソフトも指しているのが興味深い。
△2二角に対して本ではまず、▲4五桂と指す変化を取り上げている。
その後、▲2四歩から飛車先の歩を交換する変化が解説されている。
この本の特徴として分岐の解説が丁寧という点がある。
アマチュア将棋ファンにとっては実戦では最善手以外の手にも対応していかなければならないので、このような丁寧な解説は大変ありがたい。
その後の解説も一手一手丁寧で、居飛車党にとっても振り飛車党にとっても指し手の狙いがわかりやすい作りとなっている。
Hefeweizenの将棋の総棋譜は以下から
その他の形の解説として、後手の△7二金型の将棋も取り上げられているのがゴキゲン中飛車党にはありがたい限りだ。
また、第3章の超速▲3七銀対△4四銀型~持久戦・穴熊編~では、振り飛車側から有力とされている△6二飛型について本では詳しく解説されている。
△6二飛型に関しても将棋倶楽部24のHefeweizenは実戦で指している。
動く将棋盤は以下のリンクから
棋戦:R対局(早指2)
先手:先手(2429)
後手:Hefeweizen(3347)
戸辺七段の本では相穴熊の将棋が解説されているが、先手が左美濃の場合にも△6二飛型は応用できる。
(上図からの指し手)
▲7七桂 △1四歩 ▲1六歩 △6一金左 ▲8七銀 △7二金左 ▲7八金 △4二角
(下図)
先手は後手からの△6五歩に備えて▲7七桂と指したが、後手は玉を固めてから△4二角と引いたのが洗練された駒組み。
のちの角交換からの捌きと△3三桂からの駒の活用を可能にしている。
(上図からの指し手)
▲3八飛 △3三桂▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △3七歩 ▲同 飛 △4五桂 ▲3六飛△6五歩(下図)
後手は△3三桂で捌きの準備が完了した。
先手は▲3五歩から攻めていったが、▲3五同銀の瞬間に△3七歩~△4五桂が絶好の捌きとなり、局面を有利にした。
この将棋の総棋譜は以下から
まったくの同一局面ではないが、戸辺七段の本にも振り飛車穴熊の堅さを生かしてからの捌きが解説されているので、居飛車側からの持久戦にも対応できる一冊となっている。
第4章から第6章までは先手中飛車の解説となっている。
第4章では流行の兆しのある居飛車側が後手番での二枚銀急戦、第5章では一時期大流行した後手番角道不突き左美濃、そして第6章では昔居飛車側の主力の作戦だった角交換型の将棋について解説している。
そのどれもで戸辺流の工夫が随所で出ており、戸辺七段の研究によって先手中飛車がどの作戦に対しても互角以上に戦える内容となっている。
戸辺誠七段著「戸辺流 こだわりのゴキゲン中飛車」のまとめ
本書は先手番、後手番ともに中飛車にこだわった戸辺七段渾身の仕上がりとなっている。
手順の中には独自の研究によるものも多く、戸辺七段曰く
昔からある指し方に最近の研究を織り交ぜたバージョンで、自分も実戦で使いたいのであまり公にしたくなかったのだが、今回のこの本の締めにどうしても必要だと思ったので、迷った末に掲載することにした「おまけ」的な部分である。(p10より)
というマル秘手順も収録されていて、大変読み応えのある内容となっている。
中飛車側の作戦としては△4四銀の銀対抗型以外にも有力な指し方があるが、本書ではあえて銀対抗に絞ることで、分岐を多く取り上げた深みのある研究内容となっている。
よって広く浅くといった内容ではなく、ある程度テーマを絞って深みを持たせた一冊といえるだろう。
本書はゴキゲン中飛車党だけでなく、超速を主戦とする居飛車党の方が読んでも勉強になる一冊である。