はじめに
振り飛車の中でもノーマル三間飛車はここ1~2年の間でかなり注目されている戦法である。
その中、2018年9月に出版された佐藤和俊六段著「緩急自在の新戦法! 三間飛車藤井システム」が売れ行き好調で3度の増刷となっている。
三間飛車藤井システムは従来のノーマル三間飛車とは構想が異なり、展開によっては居飛車に戻すような指し方も視野に入れる戦法である。
今回の記事ではfloodgateの将棋を題材として、三間飛車藤井システムの戦い方を見ていきたいと思う。
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三間飛車藤井システムの実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/233333
開始日時:2018/04/05 00:00:01
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+gikou2_1c+Calico_cat+20180405000004
先手:gikou2_1c
後手:Calico_cat
(初手からの指し手)
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲4八銀 △3二飛(途中図)
▲6八玉 △9四歩 ▲7八玉 △9五歩▲7七角 △7二銀 ▲5六歩 △4二銀 ▲9八香 △6四歩(途中図)
▲5七銀 △4三銀 ▲8八玉 △6三銀 ▲6八角 △7二飛(下図)
先手は17手目に▲9八香と上がり居飛車穴熊の持久戦志向。
それを見て後手は△6四歩~△6三銀~△7二飛と袖飛車に振り戻した。
△7二飛では△8二飛も有力で、以下8筋の歩を伸ばしていくことになり一局。
(上図からの指し手)
▲9九玉 △7四歩 ▲6六銀 △3二金 ▲8八銀 △7三桂 ▲7八金 △4二玉(下図)
飛車を3筋から7筋に振り戻した後手だが△4三銀と上がっている都合上、ここは△3二金から雁木にするのがバランスのとれた指し方である。
先手は▲9八香と上がった以上、居飛車穴熊に組むのが自然。
(上図からの指し手)
▲5九金 △5二金 ▲3六歩 △3一玉▲6九金 △6五歩 ▲7七銀引 △5四歩(下図)
先後ともに駒組みを進めていく。
40手目△5四歩の局面まで進むと先手居飛車穴熊対後手ツノ銀雁木の将棋だ。
先手の居飛車穴熊は堅いが、後手のツノ銀雁木もバランスが取れている。
ソフトの形勢判断はほぼ互角ながら、若干後手が作戦勝ちと判断している。
(上図からの指し手)
▲3五歩 △同 歩 ▲同 角 △4二角 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 角 △同 角▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛 △2二玉(下図)
先手は3筋の歩を交換してからさらに2筋で角を交換し飛車先の歩も切った。
この一連の手順は先手好調にも見えるが、これは後手としても望む展開である。
なぜならば、後手の陣形は角打ちの隙がないのに対して先手陣は角の打ち込みの隙が多いからだ。
この考え方は以前、雁木戦法の記事でも書いた。
参考記事
www.fgfan7.com
本局では先手が居飛車穴熊なのでさらに角打ちの隙が大きくなっている。
後手としては不満のない進行となった。
(上図からの指し手)
▲7九金寄 △5七角 ▲3八飛 △2四角成 ▲6八銀 △3四歩 ▲2八飛 △3五馬
(下図)
52手目△2二玉と上がった局面だが、先手はすでに指し方が難しくなっている。
固めすぎの弊害が出ており、後手に馬を作らせるのを防ぐのが難しい。
▲7九金寄に代えて▲4八角と打つのも、以下△6四角▲1八飛△5五歩(参考図)
と進んで後手作戦勝ちとなる。
本譜は無条件で馬を作ることに成功し、後手にまったく不満のない局面になった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲1六歩 △1四歩 ▲1七桂 △3六馬 ▲2五桂 △2四歩(途中図)
▲1五歩 △同 歩 ▲1二歩 △同 香 ▲1三歩 △同 桂▲同桂成 △同 玉 ▲1五香 △1四歩(下図)
先手は▲1七桂から攻めようとするが、後手は馬がある上に雁木のバランスの良い陣形なのでなんら攻めを怖れる必要がない。
一手一手丁寧に対応していけば自然に形勢がよくなる将棋である。
(上図からの指し手)
▲3三歩 △4二金左 ▲5五歩 △同 歩 ▲2七角 △同 馬 ▲1四香 △同 玉▲2七飛(下図)
局面としては後手優勢だが、受け方を間違えると勝負形となってしまうので注意が必要だ。例えば、▲3三歩に対して△同金と取ると以下▲6四桂△同銀▲3一角(参考図)
と進んで王手銀取りが掛かる。この順は少し後手が嫌である。
よって本譜は▲3三歩に対して△4二金左とした。
以下も後手が受けを続ける展開が続く。
そして85手目▲2七飛の局面で先手は次のある攻めを狙っている。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△2五桂 ▲3六角 △8二飛(下図)
85手目▲2七飛の局面で先手は次に▲6四桂を狙っている。(△同銀には▲3六角で王手飛車取り)
それを食っては一気に形勢は逆転となるのでここでは△2五桂と受けるのが手堅い指し手だ。
続く▲3六角(次に▲6四桂の狙い)にも△8二飛と寄って受けておく。
本局の後手の指し回しは一貫して丁寧な受けが光っている。
(上図からの指し手)
▲1三歩 △同 香 ▲3七桂 △3五歩 ▲2五角 △同 歩 ▲同 桂 △1五玉(下図)
後手は角を取ることに成功したが、まだ危険な筋は潜んでいる。
95手目▲同桂の局面は次に▲1三桂成△1五玉▲2八香のような筋があり、後手も危ない。
ここは△1五玉と先逃げをしておくのがよい。
そう、後手の狙いは入玉である。
(上図からの指し手)
▲1三桂成 △2六歩 ▲2九飛 △1七歩 ▲2三成桂 △1八歩成 ▲3九飛 △1六玉
(下図)
先手の数々の攻め筋をかいくぐり後手の勝利が近づいてきた。
入玉模様の将棋ではと金を作っていくことがポイントである。
と金を量産できれば相手に取られても歩にしかならないので相当勝ちやすくなる。
本局も104手目△1六玉までで後手玉は捕まらない形となり大勢は決した。
(以下、後手の勝ち)
この将棋の総棋譜は以下から
本局のまとめ
ノーマル三間飛車はトマホークをはじめ、この三間飛車藤井システムも有力視されており今後要注目の作戦である。
最近の傾向としては後手のこの雁木への組み換えを警戒して、先手が急戦を仕掛ける将棋はネット将棋では多いように感じている。
しかし、三間飛車藤井システムはそのような急戦策にも十分対応は可能である。
詳しくは佐藤和俊六段の著書も参考になる。
参考書籍
本局は雁木にしたあとに後手は馬を作り徹底的に先手の攻めを受ける展開となった。
このような場合は方針を一貫させるのが大事となり、攻めようとせずに受けに専念するのが大事である。
また、先手の狙い筋をひとつひとつ丁寧に受け切った本局の指し回しは受けのお手本になると思う。
ぜひ参考にしてほしい。