はじめに
コンピュータ将棋の強豪ソフト「elmo」が2017年5月にフリーで公開され、多くの将棋ファンがダウンロードし検討に利用していった。
その時期からelmoが対振り飛車で、特徴のある囲いから急戦を仕掛ける将棋をよく見かけるようになっていった。
それは、(下図)のような▲7八玉・▲6八銀・▲7九金の構えである。
いつしかこの構えはelmo囲いと呼ばれるようになった。
従来も、ノーマル中飛車に対するタコ金戦法からの派生や石田流に対するひとつの作戦としてこの囲いは用いられることはあったが、決して主流の指し方とはいえずマイナーな部類のものだった。
このelmo囲いは藤井聡太七段が公式戦で用いたことも大いに話題となった。(下図)
他にも大橋貴洸四段が対振り飛車で連採し、高勝率を挙げている。
今回の記事ではfloodgateの将棋を題材として対振り飛車のelmo囲い急戦の将棋を検討していきたいと思う。
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対振り飛車elmo囲い急戦の実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/233947
開始日時:2019/01/06 10:00:00
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+BURNING_BRIDGES+Nao.+20190106100000
先手:BURNING_BRIDGES
後手:Nao.
(初手からの指し手)
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲6八銀 △9四歩 ▲9六歩 △4二飛(下図)
5手目▲6八銀が以前ならば振り飛車を誘った挑発とも取られかねない一手だが、先手には狙いの構想があった。
(上図からの指し手)
▲5六歩 △6二玉 ▲4八銀 △7二玉▲2五歩 △3二銀 ▲7九金 △3三角 ▲6九玉
(途中図)
△8二玉 ▲5七銀右 △7二銀 ▲3六歩 △5二金左 ▲7八玉(下図)
▲6八銀と上がったからには▲6八玉とは指せないが、▲7九金~▲6九玉~▲7八玉と囲いを作ったのが面白い指し方。
この組み方は、はじめにで紹介した藤井聡太七段も公式戦で指している。
23手目▲7八玉の局面はいままででありそうで意外と見られなかった局面だ。
(上図からの指し手)
△4三銀▲1六歩 △5四歩 ▲5九金 △2二飛 ▲4六銀(下図)
27手目▲5九金と寄った局面で、後手は△4一飛と指すのも有力。
以下▲3七桂△6四歩▲2六飛△6三金▲4六歩△5二銀▲6九金右(参考図)と進むのが一例で一局となる。
本譜は△2二飛を見て▲4六銀と銀を繰り出していった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△3二飛 ▲3七桂 △5三金 ▲2六飛(下図)
△3二飛に対して一番シンプルに攻めるなら▲3五歩だが、以下△4二角▲3八飛△3五歩▲同銀△6四角(参考図)と進むと後手の切り返しが成功する。
よって△3二飛には▲3七桂と跳ねておく。
△5三金は5筋を厚くする振り飛車の常とう手段だが、先手も▲2六飛と指して桂頭をカバーした。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△6四歩 ▲5五歩 △同 歩▲同 銀 △5四歩 ▲6六銀(下図)
△6四歩に対して▲3五歩とするのは以下△5一角▲3六飛△3五歩▲同銀△3四歩と進んで先手攻め切れない。
よってここはいったん▲5五歩と突く。
先手は一歩を手にして▲6六銀と引いた。これは次に▲5七銀引から銀を立て直すのが狙いである。
(上図からの指し手)
△6三金 ▲5七銀引 △7四歩 ▲4六歩 △6二飛 ▲3五歩 △同 歩 ▲5六銀(下図)
△6三金に対して先手は前述のように▲5七銀引から銀を立て直す。
そして▲4六歩が継続の攻めの手がかりを作る一手で将来の▲4五歩を狙っている。
▲4六歩に対しては△5二飛も考えられるが以下▲3五歩△同歩▲4五歩と仕掛けて先手が悪くない。
(上図からの指し手)
△5二飛▲1五歩 △8四歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲4五歩 △同 歩 ▲3三角成 △同 桂 ▲3四歩 (下図)
先手は一回▲1五歩と間合いを図った後に「開戦は歩の突き捨てから」のセオリー通りに2、4筋の歩を突き捨てて仕掛けていった。
角交換して▲3四歩と打った局面は先手好調のようだがまだ難しい。
(上図からの指し手)
△同 銀 ▲2四飛 △5五歩▲4七銀 △5四飛 ▲2二飛成 △4四角 ▲4一角(下図)
61手目▲4七銀の局面で後手は△5六歩(参考図)として次に△5七歩成を狙うのも有力だった。
以下、①▲5八歩には△4三銀で3四に打つ歩がないため後手有利、②▲3四飛は△5七歩成で後手にもチャンスが出てくる。
よってここは③▲5八銀がよく、以下△4三銀には▲3四歩、△3六歩には▲3四飛から攻め合って先手良しとなる。
本譜は△5六歩ではなく△5四飛として銀取りを受けたが、▲2二飛成~▲4一角で先手の攻めが好調となった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△5三金 ▲1一龍 △6五歩 ▲3一龍 △5六歩 ▲5五歩(途中図)
△同 角▲5六銀 △9九角成 ▲5五歩 △6四飛 ▲7七桂(下図)
先手は▲1一龍~▲3一龍(△2五桂の防ぎ)として駒を蓄える。
後手の△5六歩には▲5五歩(前述の途中図)が焦点の歩で好手となった。
その後、後手に△9九角成と香を取られたが、▲7七桂が味の良い駒の活用で次の▲6五銀を狙い先手好調となった。
(上図からの指し手)
△3六歩 ▲6五銀 △3七歩成 ▲7四角成 △同 飛 ▲同 銀 △8三香▲3三龍 △4三銀 ▲6五桂打(下図)
先手は狙いの▲6五銀を指すことができて好調。
その後、▲7四角成としたのが好手で7四に銀が進出したのが好位置となった。
後手は8三のキズを無くすために△8三香と埋めたが、▲3三龍~▲6五桂打で攻めが続く形となり先手優勢となった。
なお、上図で7九の金が6九の場合は次に△8九角があるため形勢は後手勝勢となる。
7九金型で6九に逃げ道のあるelmo囲いの長所が出た局面だといえる。
この将棋の総棋譜は以下から
対振り飛車elmo囲い急戦のまとめ
このelmo囲い急戦はプロ公式戦でも見かけることが増えてきているうえ、floodgateでも指されるのを目にするのが珍しくなくなってきた。
従来の急戦策では指しにくいような筋(9九の香を取らせる等)にも踏み込んでいけるのが魅力的な指し方である。
攻め方としてはすぐに攻め切ろうとするのではなく、5筋で一歩を手にして模様勝ちを目指すのがよいと思う。
今回は対ノーマル四間飛車の将棋を見ていったが、対ノーマル三間飛車にもelmo囲い急戦は有力である。
今後、要注目の振り飛車対策だ。
参考書籍