はじめに
現代の角換わりは細かい駒の配置の違いによって仕掛け筋や結論が変わったりするので、指す方は大変である。
後手番は守勢になりがちだが、仕掛けまでに少しずつ待つ形を変えて先手に研究の的を絞られないようにしている。
後手は通常の手の損得で待ち受ける形、一手損で待つ形(参考記事)、そして今回の記事で検討していく二手損で待つ形が有力視されている。
今回の記事では以前に書いた記事より後手がさらに一手損をして待機する戦略について検討していきたい。
角換わり腰掛け銀二手損作戦の実戦例
動く将棋盤以下のリンクから
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+k4_6c+Hi-Ho+20180901060001
先手:k4_6c
後手:Hi-Ho
(初期局面)
(初手からの指し手)
▲2六歩 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △3二金 ▲7八金△7七角成 ▲同 銀 △2二銀(途中図)
▲3八銀 △3三銀 ▲3六歩 △6二銀 ▲4六歩 △4二玉 ▲3七桂 △6四歩 ▲4八金
(途中図)
△7四歩 ▲2九飛 △6三銀▲4七銀 △7三桂 ▲9六歩 △9四歩 ▲1六歩 △1四歩▲6六歩 △5二金 ▲6八玉 △5一玉 ▲7九玉 △8一飛(下図)
正調角換わり腰掛け銀の出だしから、後手が右玉模様の駒組みをしている。
てっきりそのような展開になると思われたが…。
(上図からの指し手)
▲6八玉 △6二金 ▲2五歩 △4一玉 ▲7九玉 △4二玉(下図)
先手が7九の玉を6八に戻したのを見て後手は5二→6二へ金を移動させる。
その後、一手で玉を4二に移動できる時に4一→4二と一手損して玉形を保った。
(上図からの指し手)
▲5六銀 △5四銀 ▲8八玉 △6三銀 ▲7九飛 △4一玉▲2九飛 △4二玉(下図)
後手は一度5四に出た銀を再度6三に戻す。
その後の▲7九飛 △4一玉▲2九飛 △4二玉は手の損得がプラスマイナス0である。
ここまでの一連の手順の手の損得を換算すると、後手が金の移動と銀の移動でそれぞれ一手損したので後手の計二手損となった。
(後手の玉の移動分の手損は先手の玉移動もあったので相殺されている)
なお上図の局面に近い形として、先手が一手損した場合は下図の局面(参考図)で、
参考棋譜
通常の手の損得の場合は下図の局面(参考図)となり、
(※5二~4二の玉移動は各場合共通しているので通常の待ち方とする。)
参考棋譜
そして、後手が一手損した場合は下図(参考図)となり、
参考棋譜
最後に、後手が二手損した場合が本局となる。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲4五桂 △2二銀 ▲3五歩 △同 歩 ▲6五歩 △同 歩 ▲5五銀(下図)
先手は▲4五桂と仕掛けたが、ここでは▲4五歩と模様を張る一手や▲6九飛、▲3九飛のようにさらに手待ちして様子を見る指し方もある。
しかし、その後やはり打開が難しい戦いとなるので局面をよくしにいきたいのなら▲4五桂で打開していきたい。
▲4五桂に対して△4四銀は以下、▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛(参考図)と進んでまだ難解ながら先手は局面を打開できそうだ。
よって本譜は△2二銀。そこで先手は▲3五歩と攻めを継続する。
▲3五歩に対して△4四歩は以下、▲3四歩△4五歩▲同歩△5二桂▲4四歩(参考図)と進んで後手陣の駒が圧迫されてしまう。
したがってここは△3五同歩と取るよりない。
次に▲6五歩を入れてから▲5五銀と銀を立つ。▲6五歩△同歩を入れることにより後の▲6四歩を見せている。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△3三桂 ▲1八角(下図)
後手は▲5五銀に対して△3三桂と桂馬をぶつける。
△3三桂では△5四歩で先手の銀の行き場所がないようにも見えるが、▲9七角(参考図)という意表の一手がある。
以下、△8六歩には▲同角△同飛▲同歩△5五歩に▲8一飛で先手良しとなる。
よって▲5五銀には△3三桂と跳ねたが、そこで先手の▲1八角が狙いを秘めた一手だった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8二飛▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛(下図)
先手の▲1八角の狙いは次に▲3三桂成△同銀▲6三角成△同金▲7二銀(参考図※後手が一手パスをしている)と進めて飛車金両取りを掛けることにある。
よって後手は△8二飛としてこの筋を受けるが、先手は2筋の歩を切って攻めを継続する。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8六歩 ▲同 銀 △2三金 ▲6四歩 △5二銀 ▲3三桂成 △同 玉 ▲2九飛(下図)
▲2四同飛の局面で後手はここぞとばかりに△8六歩を入れる。
これに対しては①▲同銀と②▲同歩の両方があり相当悩ましい局面。
floodgateの実戦やプロ公式戦では①▲同銀しか指されていないが②▲同歩も有力である。
実際、この局面を前にして藤井聡太七段は1時間13分の長考をした末に①▲同銀を選択している。
△8六歩に対して②▲同歩以下の進行の一例としては△8七歩▲同金△8五歩▲6四歩△5二銀▲3三桂成△同玉▲2九飛△2四歩(参考図)と進んで難解な形勢。
本譜は△8六歩に▲同銀と取り、△2三金には一本▲6四歩の利かしを入れてから飛車を引いた。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△2五歩▲同 飛 △8四桂 ▲6七金 △9六桂 ▲同 香 △2四歩 ▲3四歩 △同 金▲2九飛(下図)
先手は▲2九飛と引いた局面では①△2四歩と②△2五歩が有力。
①△2四歩は藤井聡太七段対近藤誠也五段戦で近藤五段が指した一手で以下、▲4五角△9五歩▲同歩に△4四歩(参考図)と進んで難解な勝負となった。(結果は後手の近藤五段の勝ち)
参考図までの手順で途中の△9五歩には▲4七桂(参考図)として次に▲3五桂からの攻めを狙うのも有力だった。
本譜は▲2九飛に対して△2五歩と打った。
△2五歩には①▲同飛と②▲4五角があり、どちらも有力。
②▲4五角の実戦例として以下の棋譜がある。
参考棋譜
本譜は△2五歩に対して①▲同飛と取った。
そこから△8四桂▲6七金△9六桂▲同香と味付けをしてから「大駒は近づけて受けよ」の格言通りに先手の飛車を近づけて△2四歩と飛車取りに受けた。
△2四歩の局面では▲3五飛△3四歩▲3九飛のような変化も考えれたが、本譜は▲3四歩と玉頭に歩を入れてから▲2九飛と引いた。
(本譜局面図再掲)
さて上図の局面まででいったん検討を打ち切るが、図の局面はまだまだ難解な局面である。
参考までにソフトで検討させた画面を添付する。(△3六歩以下互角となっている)
この将棋の総棋譜は以下から
角換わり腰掛け銀最前線~後手番二手損作戦~のまとめ
ここまで検討してきてわかったことだが、角換わりの将棋は駒がぶつかるまでの駒組みで手の損得が形勢にあまり響かないので、後手は手損を考慮しつつ先手に研究の的を絞られないようにするのが勝負の面で有力である。
また、駒がぶつかりだした後の中盤戦では重要な分岐が一手ごとに出てきてどれもこれも丁寧に検討していっても終わりが見えないほどである。
それくらいこの現代の角換わり腰掛け銀の将棋は奥が深く、プロ公式戦やfloodgateでの実戦も多いという理由の一つになると思う。
本記事のタイトルに記した~後手番二手損作戦の是非~に対しての回答としては「後手番としてはかなり有力な手の待ち方である」という結論としたい。