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片上大輔七段著「将棋 平成新手白書 居飛車編」レビュー

はじめに

現代将棋は戦法の流行のサイクルが早く、我々アマチュアがそのすべてを把握していくのはなかなか大変である。

相居飛車の将棋は少し前に雁木が突如現れたと思いきやその流行は落ちついて、今は角換わりを中心としてそれに続いて相掛かり、矢倉、雁木、そして横歩取りや力戦の将棋が指されているといった状況だ。

このような激動の現代将棋を、平成という括りで総括した居飛車総合書が出版された。

著者の片上大輔七段は初の東大出身棋士としてつとに有名で、理事での活動経験があるなど多方面で活躍している。

本記事ではこの「将棋 平成新手白書 居飛車編」をレビューしていくことで相居飛車の変遷をたどっていきたい。

本書の内容(目次)について

本書はタイトルに居飛車編とあるように、「横歩取り・相掛かり・矢倉・雁木・角換わり」それぞれの相居飛車戦について解説がされている。

目次は以下のようになっている。

第1章 横歩取り系
第2章 相掛かり系
第3章 矢倉系
第4章 雁木系
第5章 角換わり系
第6章 新手アラカルト

まさに相居飛車の総合書といった目次内容である。

それぞれの章に系という文字がついているのは、戦法の垣根を越えてそれぞれの形が出現することが増えたので片上七段の意図によって付けられた。

まずはそれぞれの章でその戦法の概要が示され、その後に具体的なテーマについて深堀りしていく構成となっている。

第1章 横歩取り系

この記事を読んでいる読者の方は「最近プロの将棋で横歩取りが減っているな」と感じているかもしれない。

また、「でもなんで減ったのかがわからないし、そもそも横歩取りはいつの間にか指されていた形が消えていってよくわからない」と感じてもいるだろう。

本書では概要で、平成時代における横歩取りの流行を大まかに分類してくれている。

以下、引用する。

 (1)△8四飛型が当たり前(平成ひと桁)

→(2)△8五飛型が登場し、大流行(平成10年代)

→(3)△8四飛型が再流行(平成20年代)

→(4)▲3六飛と引かない形が大流行(現在)

と移り変わりが見られる。(p8より)

本書では(3)と(4)を重点的に検証しており、また横歩取らずの▲5八玉についてもテーマを設けており詳しい。(下図)

手数=15 ▲5八玉 まで
後手:後手
後手の持駒:歩二 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩 ・ ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 飛 ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・v飛 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:歩二 
手数=15  ▲5八玉  まで
後手番

私がこの章を読んで興味深かったのが、振り飛車党の菅井七段が一時期後手番横歩取りを好んで指していたことに対する片上七段が考察をしている箇所で、プロならではの視点が見れてとてもよかった。

第2章 相掛かり系

アマチュアにとって相居飛車の中で一番理解が難しいのが相掛かりの将棋ではないかと思う。

序盤から分岐が多く、飛車先の歩を切るタイミングが複雑化しており、戦術を体系的にまとめるのもかなり大変である。

相掛かりはいま、未知との遭遇と温故知新の両方が味わえる戦型となっている。(p50より)

というように、相掛かりという戦法全体を俯瞰してみてもかなり戦術の幅が広いのが魅力的だ。

最近では相掛かりAlphaZero流(下図)と呼ばれるような新型も出てきており、今後要注目の戦型である。

手数=17 ▲3七桂 まで
後手:elmo
後手の持駒:歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・ ・v歩v歩v歩v歩v歩 ・|三
| ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩v飛 ・ ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| ・ ・ 歩 歩 歩 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ 銀 飛 ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:AlphaZero
先手の持駒:歩 
手数=17  ▲3七桂  まで
後手番

私がこの章を読んで一番興味深かったテーマはUFO銀(下図)である。

手数=21 ▲3六銀 まで
後手:後手
後手の持駒:歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v角v歩v歩|三
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 ・ ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:歩 
手数=21  ▲3六銀  まで
後手番

UFO銀は一時期プロ公式戦でもかなり多かったが、ここ最近はあまり見る機会がないように感じていた。

その理由は本書を読むことで少し理解できたと思う。

どうも現代人はUFOに怯えなくなったようだ。(p55より)

というユニークな言葉でその対策が書かれている。

第3章 矢倉系

矢倉ほど10年前と指されている形が違う戦型も珍しいと思う。

実際、本書の概要の冒頭には、

本章は「矢倉系」ではあるが数年前までの「矢倉」のイメージとはかけ離れた内容になっている。(p94より)

と書かれており、お互いに組み合う相矢倉の戦いがかなり減っていった経緯もしっかりと本書中に記載されている。

そして先手番でも急戦策を模索するようになり、結果として米長流急戦矢倉(下図)が再注目されているのも面白いところだ。

手数=28 △3一角 まで
後手:後手
後手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v玉v角v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・v金v銀v歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 銀 歩 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 玉 ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:なし
手数=28  △3一角  まで

もちろん、2~3年前に大流行した対矢倉左美濃急戦についても書かれており、この章を読むことで矢倉の変遷を自分の頭の中で整理することができるだろう。

第4章 雁木系

雁木はponanza等のソフトの影響もあり、1~2年前にプロ公式戦でも大流行した。

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その後、先手の対策が進んだこともあり流行は少し落ちついたが、雁木という戦法は相居飛車の他の戦型にもさまざまな影響を与えているため、今後完全に消滅するということはまずないだろう。

本書では先手の▲8八銀型と▲6八銀型の違いから、4手目△4四歩からの雁木、そして先手雁木から相雁木まで、現代の雁木戦法について幅広く検討されている。

※本文中で私の著書について言及してくださりました。ありがとうございます。

この戦型はコンピュータ将棋の研究家であるsuimon氏の著書

「コンピュータ発!現代将棋新定跡」

やブログに詳しいのでぜひ参照してほしい。(p143より)

現状の雁木は先手の▲6八銀型にいかに対応するかと、4手目△4四歩からの雁木には先手からの早繰り銀速攻にいかに対応するかが課題となっている。

以下、片上七段の言葉。

雁木系の将棋は全体として新しいのでいままでにない駒組みや攻め筋も多い。

一方で基本的な歩の手筋が多く登場する将棋でもあり、アマチュアの方にもぜひオススメしたい戦型だ。

第5章 角換わり系

現在、プロ、アマ、コンピュータ将棋問わずに相居飛車戦で最も指されているのが角換わりである。

本書ではまずは、▲5八金・△5二金型のおさらいからはじまり、その後片方は▲4八金・△6二金にし、そしてお互いが▲4八金・△6二金の新型同型に組むという過程がわかりやすく振り返られている。

そして新型同型からの先手の仕掛け(下図)が深堀りされて検証されている。

手数=38 △4四歩 まで
後手:後手
後手の持駒:角 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 玉 ・ 金 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:角 
手数=38  △4四歩  まで

私の著書「コンピュータ発!現代将棋新定跡」でも触れていた形だが、その後研究が進み、ここから▲4五歩△同歩▲同銀という手順がかなり増えている。

そこで△5五銀とかわす手があり、その時点ではソフトが後手ややよしの評価を出すが、しばらく進むと先手ややよしの評価に変わるというかなり珍しい現象が起こる。

そういった要因があり、現在はこの同型よりも、後手が意図的に「パス」する指し方が増えてきている。

片上七段の本ではこの後手番の「パス戦略」に関してもかなり詳しく解説されている。

正直なところ、かなり高度な指し方なので読者の中には難しく感じる方もいると思うが、大まかな感覚だけでも掴んでおくと今後の観戦や自身の対局で生きてくるだろう。

第6章 新手アラカルト

さまざまな新手を紹介している章。

その中でも第5章でも取り上げられた下図の形について再度検証がなされている。

手数=38 △4四歩 まで
後手:後手
後手の持駒:角 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v飛 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v金 ・v玉v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 玉 ・ 金 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手:先手
先手の持駒:角 
手数=38  △4四歩  まで

それだけ角換わりの新型同型の結論が今後の流行形に対する重要な要素となっているのだろう。プロ棋戦でも立て続けに指されたことが記されている。

片上大輔七段著「将棋 平成新手白書 居飛車編」のまとめ

私としても発売前からとても楽しみにしていた一冊で、実際に読んでみて、とても充実している内容だなと感じた。

片上七段のブログでは、

なお、続編(振り飛車編)も執筆を予定しています。

新刊 | daichanの小部屋

とのことで今から振り飛車編の刊行もとても楽しみである。

本書の対象読者としてはメインはアマ有段からアマ高段クラスだが、

級位者の方でも日頃モバイル中継や動画中継でプロの棋譜を追っていればきっと、「あ!この形は見たことがある」といった気づきや発見があり、自身の観戦や対局に役に立っていくのは間違いない。

あと細かい点だが、本書は従来のマイナビの本よりも一行の文字数が多くなっており、それも内容の濃さを表していると思う。

出版社のツイート