はじめに
米長流急戦矢倉は後手の(下図)ような構えを指し、昔から有力視されている攻撃的な戦法である。
その源流については森下卓九段の矢倉自戦記集の「森下の矢倉」 に詳しい。
以下引用する。
米長矢倉(注 米長流急戦矢倉のこと)は米長先生が昭和五七年の日本将棋連盟杯の決勝戦で、田中(寅)七段(当時)との一戦に用いられたのが始まりである。
源流としては、宮坂先生がよく指されていた。それを米長先生が独自に改良されたものだと思う。
その五七年の米長-田中戦を基に様々な工夫が重ねられ、後手番矢倉の一大有力戦法に成長した。
昭和五九年、六十年の米長-中原の十段戦で米長矢倉の威力が証明された。本局が行われた六三年当時も依然として猛威をふるっていた。(p24より)
その後は先手からの対策が進み、米長流急戦矢倉は徐々に採用率が減っていったが、新鋭の藤森哲也五段が、プロデビュー当時に米長流を独自に改良した藤森流急戦矢倉を連採し高勝率を収めた。(藤森流はのちに書籍化されている)
参考書籍
その後米長流には特に目立った動きはなかったが、私見では2017年11月に行われた第5回将棋電王トーナメント決勝戦で平成将棋合戦ぽんぽこが先手番で米長流急戦矢倉を採用したのが再注目されるきっかけだったように思う。(下図)
参考棋譜
この将棋に快勝したぽんぽこは、この年の電王トーナメントで見事優勝した。
その後、プロ棋界でも機会をうかがって先手番で米長流急戦矢倉を目指す将棋が増えていったように思う。(下図)
今回の記事ではfloodgateの棋譜から先手番米長流急戦矢倉の可能性を探っていきたい。
スポンサーリンク
先手番米長流急戦矢倉の実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+NNUEadj_GW3_i9_7960X+YO482QQR_i7-7600U+20180605180003
先手:NNUEadj_GW3_i9_7960X
後手:YO482QQR_i7-7600U
(初期局面)
(初手からの指し手)
▲7六歩 △3二金 ▲2六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀(下図)
先手は5手目に▲6八銀、7手目に▲7七銀と上がり、矢倉を志向した。
(上図からの指し手)
△4二銀 ▲2五歩 △3三銀 ▲3六歩 △6二銀▲5六歩 △5四歩 ▲7八金 △5二金▲4八銀 △1四歩 ▲4六歩 △4四歩 ▲6九玉(下図)
最近の矢倉戦の傾向として先手が早めに▲2五歩を決めることがある。
これは後手からの急戦策を警戒してのものだ。
そして先手はすぐに▲6六歩を突かないのもポイントで、▲6六銀の余地を残しての駒組み。
(上図からの指し手)
△8五歩 ▲3七桂 △4一玉▲5八金 △4三金右 ▲4七銀 △7四歩 ▲6六銀(下図)
先手は6六に銀を上がり、いよいよ米長流急戦矢倉が出現した。
8筋が薄くなるが、中央からの攻めを狙っている。
(上図からの指し手)
△3一角 ▲5五歩 △同 歩 ▲4五歩 △8六歩 ▲同 歩 △8七歩▲同 金 △8六角 ▲8四歩(下図)
後手の△3一角では△6四歩と指す手も自然に見えるが以下、▲5五歩△同歩▲同銀△5四歩▲6六銀(参考図)としておいて、その後に▲5七銀~▲5六銀直と銀を立て直して一局の将棋となる。
本譜は△3一角だったので、先手は▲5五歩~▲4五歩と仕掛けていく。
対する後手の△8六歩~△8七歩は米長流急戦矢倉に対する常とうの反撃手段で8筋の薄さに着目した手順だ。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△6四角 ▲7七角 △5四金 ▲4六銀 △7三桂 ▲5五銀左(下図)
先手の▲8四歩に対して△同飛と取るのは以下、▲7八玉△6四角▲8六歩(参考図)としておいて局面を収めることができる。
本譜はいったん▲7七角と上がってから▲4六銀~▲5五銀左として中央でガッチャン銀だ。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△6五桂 ▲6四銀 △7七桂不成▲同 桂 △6四金 ▲2四歩 △同 歩 ▲4四歩(下図)
▲5五銀左と中央で華々しい戦いが起こった。
これに対して△同金と取ると以下、▲同銀△4二角▲4四歩△6五桂▲6六角(参考図)と進んで一気に先手の勝ち筋となる。
このように相手の対応によって一気に勝ち筋に持っていけるのが米長流急戦矢倉の魅力である。
本譜は▲5五銀左に対して△6五桂と跳ねて反撃をし、以下激しい戦いとなった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△3九角 ▲2九飛 △2八銀 ▲3九飛 △同銀不成 ▲4三歩成 △同 金▲6一角(下図)
△3九角▲2九飛と進んだ局面で△8四角成には▲8五歩(参考図)と一回歩を打っておくのが好手で、これで相手の馬と飛車を封じ込めることができる。
よって本譜は△2八銀としたが、あっさりと▲3九飛と取ってしまうのが良く、その後の▲4三歩成~▲6一角が厳しい一手となった。
(本譜局面図再掲)
以下先手の勝ち。
この将棋の総棋譜は以下から
先手番米長流急戦矢倉の戦いのまとめ
米長流急戦矢倉は昭和時代から続く急戦矢倉の有力戦法で、過去にも多くの棋士が採用してきた。
そして近年コンピュータ将棋ソフトやプロ棋士が先手番での積極策として米長流を採用するケースが増えてきている。
米長流は勢いよく攻め込んでいくのが醍醐味で、相手がひるんだ対応をしてきたら一気に形勢を有利を導くことができるのもアマチュアに向いているところである。
ただ、中央に厚い分角頭が薄いのでその周辺の受け方には注意をしなくてはならない。
本譜の展開はそういったケースの参考になると思う。
米長流急戦矢倉の参考棋譜
参考書籍