はじめに
先手の雁木志向に対して後手も雁木で対抗する相雁木の将棋は、駒組みが終わった時点で先手にとって打開筋を見つけるのがなかなか難しく難敵となっている。
その中、2019年2月16日の第12回朝日杯将棋オープン戦決勝で渡辺明棋王が藤井聡太七段に対して相雁木から棒銀に繰り出す作戦を披露した。(下図)
渡辺明棋王は準決勝でも千田翔太六段に対して雁木を指しており、雁木を有力と考えたのか、はたまた朝日杯用に用意していた作戦なのか…等興味は尽きないところだ。
今回の記事ではfloodgateの将棋を題材として相雁木の将棋から先手が棒銀に出た将棋を検討していきたい。
相雁木からの先手棒銀の攻防の実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+Shining_Sword_Breaker+dobby+20180226060003
先手:Shining_Sword_Breaker
後手:dobby
(初期局面)
(初手からの指し手)
▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩 ▲6八銀 △3二金 ▲3八銀△6二銀 ▲3六歩 △7四歩▲2五歩 △7三桂 ▲6六歩(下図)
先手は15手目に▲6六歩と角道を止めて雁木志向。
▲6六歩に代えて▲7八金と指すのはやや危険で以下、△7七角成▲同銀△8六歩▲同歩△6五桂(参考図)という速攻がうるさい。
よって本譜は後手からの速攻を警戒して▲6六歩と角道を止めた。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△3三角 ▲7八金 △4四歩 ▲9六歩 △4二銀 ▲1六歩 △1四歩 ▲5八金 △4三銀(下図)
▲6六歩に対して後手は△3三角として飛車先の歩交換を受けた。
△3三角では△5五角という手もあったところで以下、▲3七桂△2二銀▲7八金△3三銀(参考図)として3三の地点に銀を持っていくのも一局だった。
本譜は△3三角だったので相雁木模様となった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲6七銀 △9四歩 ▲6八玉 △5二金 ▲7九玉 △4一玉 ▲4六歩 △3一玉(下図)
お互いに似たような駒組みが続くが、先手の銀が3八に上がっているのが特徴。
そして次の一手が先手の作戦の岐路となった。
(上図からの指し手)
▲2七銀 △5四歩 ▲2六銀(下図)
先手の▲2七銀~▲2六銀で棒銀の作戦がはっきりした。
▲2七銀では▲4七銀と上がるのが自然に見える。
以下、進んで(参考図)のような腰掛け銀の相雁木の先後同型に進むのが一般的である。
参考図の局面をどのように評価するかは見解の分かれるところだが、先手の打開が難しいと見る向きも多い。
よって本局の先手は棒銀に命運をかけた。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△4二角▲6八角 △2二玉 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △3四歩 ▲2六銀(下図)
先手は棒銀の攻めを意識しての駒組みをしている。
後手の△4二角で△2二玉と玉を入城するのはやや危険で以下、▲5九角△6四歩▲1五歩△同歩▲同銀(参考図)と端から棒銀を炸裂させる順が成立する。
後手の△4二角は参考図までの手順を警戒した指し手で、同様に▲5九角としてきた場合は△6四角(参考図)とするのが好手となる。
本譜はこの順を見送り、先手は▲3五歩からじっと一歩を手にした。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△8六歩 ▲同 角 △同 角 ▲同 歩 △同 飛▲8七歩 △8一飛 ▲1五歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 香 ▲同 香(下図)
先手が▲2六銀と引いた局面で後手は△8六歩から角交換をした。
△8六歩で△6四歩から駒組みを進めるのは以下、▲3七桂△6三銀▲1五歩△同歩▲4五歩△同歩▲1四歩△同香▲2四歩(参考図)と進んで先手好調となる。
本譜は角交換となり、その後先手が端から攻めていった。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△1三歩 ▲1二歩 △同 玉 ▲1九香 △2二銀▲2四歩 △同 歩 ▲2五歩 △同 歩▲3七桂(下図)
▲1五香とした局面で後手は△1三歩と受けたが、これはやや弱気だった。
ここでは△1四歩と受けるのが最善で以下、▲同香△1三歩▲同香成△同桂▲1四歩(参考図)と進んで、そこから△2五桂▲同飛△1二歩と受けておいて難解な勝負だった。
本譜は△1三歩に対して▲1二歩△同玉▲1九香が好手順で1筋の攻めが厳しい。
さらに△2二銀の受けに対しては▲2四歩~▲2五歩の継ぎ歩攻めからの▲3七桂の桂の活用が絶好の駒運びとなり、先手有利の中盤戦となった。
(本譜局面図再掲)
以下先手の勝ち。
この将棋の総棋譜は以下から
相雁木からの先手棒銀の攻防のまとめ
現在、先手が雁木を志向するのは後手も雁木にする相雁木という戦型に進むと先手が打開に苦労するという共通認識があり、全体的にみると先手雁木の採用率は減ってきている。
しかし、渡辺棋王が朝日杯の決勝で採用したことや(結果は惜しくも敗戦)、本譜のように先手が棒銀で攻めていく指し方などがあり、まだまだ工夫の余地はあると思う。
今後、角換わり腰掛け銀の研究が煮詰まってきたと仮定したら、またこの雁木の戦いが注目されていくかもしれない。
今後も相居飛車戦の動向を気にかけていきたいと思う。
参考棋譜
その1
その2