コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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第27回世界コンピュータ将棋選手権直前特集~戦型別観戦ガイド~

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はじめに

ゴールデンウィークの5月3日(水)〜5日(金)の間に第27回世界コンピュータ将棋選手権が開催される。

↓公式サイト

http://www2.computer-shogi.org/wcsc27/

棋譜はリアルタイムでKifuと動画で中継もされる。

第27回世界コンピュータ将棋選手権 2次予選 - 2017/05/04 10:00開始 - ニコニコ生放送

第27回世界コンピュータ将棋選手権 決勝リーグ - 2017/05/05 09:30開始 - ニコニコ生放送

4/29時点では参加チームは50チーム以上であり、激戦が予想される。

ponanzaがディープラーニングの技術を使用することも大会前から大きな反響を呼んでいる。

また、参加チームのうちのひとつであるQhapaqさんがブログ上で参加チームの戦前の注目ポイントを記している。

http://qhapaq.hatenablog.com/

今回、私は現在のコンピュータ将棋が戦型別にどのような戦術を指しているのかをまとめることにした。

ゴールデンンウィークの大会開催中に本記事が観戦の羅針盤になれば幸いである。

ではさっそく始めていきたいと思う。

 矢倉

ここ最近ではコンピュータ将棋では減少傾向にある矢倉。

やはりそれは左美濃急戦をはじめとした急戦矢倉の台頭が大きく影響している。

▲7七銀型を狙った△6五桂をはじめとした攻め筋が強烈で先手側として受けきるのは相当な技量を要する。

先手矢倉を指すソフトがあるとするならば棋風が変わっていなければ技巧は指す可能性があるだろう。

昨秋の第四回将棋電王トーナメントにおいても数局、先手矢倉をもちいていた。

その中から一局ピックアップする。

第四回将棋電王トーナメント予選

先手 技巧  後手 ponanza

(初手からの指し手)

▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △6二銀 ▲5六歩 △7四歩 ▲7八金 △3四歩 ▲7七銀 △7三銀 (途中図)

f:id:fg_fan7:20170429155722p:plain

▲2六歩 △6四銀 ▲2五歩 △3二銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲3四飛 △8五歩 ▲7九角 △4二玉 ▲3八銀 △1四歩 ▲6八角 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲4六角 △6四銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170429121443p:plain

▲6六歩保留型矢倉に対して左美濃+早繰り銀で攻めていくのは有力視されている攻め筋。

プロ公式戦でも阿部健治郎七段が最近この形を採用して快勝していた。

この将棋は中盤まで非常に難しい戦いが続いたものの、時間切迫から技巧に疑問手が出て最後はponanzaの勝利に終わった。

▲6六歩保留型矢倉に対しては早繰り銀以外にも有力な攻め筋はある。

以下のツイートを参照してほしい。

その他の参考棋譜

Maidy_Maidy vs. May (2017-04-22 18:00)

f:id:fg_fan7:20170429125542p:plain

左美濃以外にも上図の形からの急戦は有力。飛車先を受けないのは左美濃急戦と同様だ。

角換わり

コンピュータ将棋全体の傾向を見ても角換わりの将棋は多い。

プロ間でも主流の▲4八金・△6二金型だけでなく早繰り銀や▲4五桂速攻の将棋も増えてきている。

他には△3三金型の角換わりもある。

Titanda_L vs. SM_1_25_Xeon_E5_2698_v4_40c (2017-04-28 14:30)

(初手からの指し手)

▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲7七角 △3二金 ▲2五歩 △3四歩 ▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀 ▲3八銀 △3三銀 ▲3六歩 △7二銀 ▲3七桂 △7四歩 ▲6八玉 △7三銀 ▲7八金 △6四銀 ▲2九飛 △5二玉 ▲4六歩 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲4五桂(下図)

f:id:fg_fan7:20170429130433p:plain

後手の早繰り銀に対して先手は▲4五桂で反撃した。

まさに角換わりの最先端を行くような将棋である。

(上図からの指し手)

△4四銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲3四飛 △3三歩 ▲4四飛 △同 歩 ▲1六角 △4三角 ▲同角成 △同 金 ▲3二角 △2二飛 ▲5三桂成 △同 金 ▲6五角成 △6四銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170429130723p:plain

先手は飛車を切り飛ばして攻めるものの上図は後手がうまく受けきった模様。

しかしこの▲4五桂は隙があればいつでも狙える筋であるだけに序盤から気が抜けない。

それが現代の角換わりの将棋である。

その他の参考棋譜

SM_1_25_Xeon_E5_2698_v4_40c vs. ukamuse_6700K (2017-04-28 04:30)

f:id:fg_fan7:20170429131125p:plain

やはり今の角換わりの研究課題と言えばこの腰掛け銀▲4八金・△6二金の同型。

両者とも打開が非常に難しく千日手になることも珍しくない。

大会中に新定跡が誕生するかもしれない。

monkeymagic vs. Maidy_Maidy (2017-04-27 06:30)

f:id:fg_fan7:20170429131724p:plain

Maidy_Maidyというソフトが多用している後手番での飛車先切らせ+早繰り銀。

後手番ながら先攻できるのが魅力的な作戦だ。

相掛かり

相掛かりもコンピュータ将棋はそこそこ指している印象がある。

最近のトレンドは▲5八玉や△5二玉型で構える将棋。

序盤からかなりの手将棋になりやすく定跡化もされていない為、力戦形になるのが予想される。

Ukamuse_KabyLake-7700K vs. Titanda_L (2017-04-27 10:30)

(初手からの指し手)

▲3八銀 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲2五歩 △7二銀 ▲5八玉 △5二玉 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2六飛 △3四歩 ▲3六飛 △3三金 ▲7六歩 △4二玉 ▲2六飛(下図)

f:id:fg_fan7:20170429132644p:plain

先手の陣形は最近の流行に近い形。それに対して後手は玉の位置を5二~4二へ移動させて細かな動きを見せている。

双方、駒がぶつかるまでの駒の配置の最善形を目指しており、その駆け引きが相掛かりの序盤のひとつのポイントと言えるかもしれない。

その他の参考棋譜

monkeymagic vs. ShootingStar (2017-04-27 02:30)

f:id:fg_fan7:20170429133300p:plain

UFO銀と呼ばれる▲3六銀・△7四銀型の将棋も指される可能性はある。

横歩取り

現在、コンピュータ将棋の相居飛車の中では多く指されるようになった横歩取り。

定跡の工夫により、レートの低いソフトでも格上のソフトに一発が入りやすいのが魅力的だ。

SILENT_MAJORITY_sf170225_6950XEE vs. May (2017-04-20 11:30)

(初手からの指し手)

▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲6八玉(下図)

f:id:fg_fan7:20170429134257p:plain

勇気流と呼ばれる玉上がり。

コンピュータ将棋でも2016年頃からしばしば指されるようになった。

(上図からの指し手)

△2二銀 ▲3六歩 △8二飛 ▲8四歩 △8八角成 ▲同 銀 △3三銀 ▲3五飛 △8四飛 ▲3七桂 △2四飛 ▲4五桂 △2九飛成 ▲3三桂不成△同 桂 ▲5五角(下図)

f:id:fg_fan7:20170429141422p:plain

後手は△8二飛と引いて局面を穏やかな方向に持っていきたいところだったが先手は▲8四歩から攻めの手を緩めない。

このように勇気流はノーガードの激しい展開になりやすい。

gpsfish_normal_1c vs. SM_1_25_Xeon_E5_2698_v4_40c (2017-04-28 23:00)

(初手からの指し手)

▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △6二玉 ▲8七歩 △8五飛 ▲2六飛 △2五歩 ▲2八飛 △8八角成 ▲同 銀 △3三桂 ▲6八玉 △8四飛 ▲3八銀 △7二銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170429142325p:plain

2016年初頭から指され始めたこの角交換振り飛車に近い形の横歩取りは浮かむ瀬やponanzaが得意としている。

大晦日の合議制マッチもこの将棋だった。

その他の参考棋譜

ukamuse_6700K vs. monkeymagic (2017-04-28 05:30)

f:id:fg_fan7:20170429143006p:plain

△5二玉+△7二銀型はバランスが良く、有力な構え。

この後、△2三銀~△2四飛の飛車ぶつけや△8六歩~△8六飛~△7六飛のような攻め筋がある。

力戦

力戦というカテゴリーながら最近のコンピュータ将棋の序盤は多様化の方向に進みつつあり、特に序盤早々から定跡が切れた場合、このカテゴリーに位置する将棋が多いと言えるかもしれない。

SM_1_24_Xeon_E5_2698_v4_40c vs. Usa2dash_on_Photon2 (2017-03-09 17:30)

(初手からの指し手)

▲7六歩 △3四歩 ▲7八金 △8四歩 ▲2六歩 △3二金 ▲6六歩 △4二銀 ▲6八銀 △4一玉 ▲6七銀 △6二銀 ▲5八金 △8五歩 ▲7七角 △7四歩 ▲2五歩 △3三銀 ▲3六歩 △7三銀 ▲4八銀 △3一角 ▲3七桂 △5四歩 ▲6九玉 △5二金 ▲5六歩

(下図)

f:id:fg_fan7:20170429144118p:plain

先手矢倉の旗色が悪くなりつつある中、注目され出したのが雁木である。

ソフトは▲6七銀・▲7八金型を好む傾向がありこの雁木を愛用するのだろう。

昔の棋書には雁木では▲7七角と上がらない指し方のほうが多く紹介されているが、コンピュータは▲7七角と上がる展開も割と多い。

(上図からの指し手)

△7五歩 ▲同 歩 △同 角 ▲2四歩 △同 銀 ▲4五桂 △4四歩 ▲2五歩 △3三銀 ▲同桂成 △同 桂 ▲2四歩 △同 歩 ▲3五歩 △同 歩 ▲2四飛 △2三歩 ▲4四飛

(下図)

f:id:fg_fan7:20170429144552p:plain

△7五歩 ▲同 歩 △同 角と動いてきたのを見計らって▲2四歩 △同 銀 ▲4五桂が面白い攻め方。ここで△1四歩と突いても▲6五歩が味の良い一着となり手が続く。

本譜も銀桂交換に成功し、先手有利となった。

雁木にはおおきな可能性がある。

その他の参考棋譜

SILENT_MAJORITY_1.25_i5_6200U vs. ukamuse_i7 (2017-04-28 08:00)

f:id:fg_fan7:20170429150107p:plain

一時期よりは減ったもののまだまだ指されている右玉。

昨年はNineDayFeverが採用していた。

基本的にカウンター狙いだが展開によっては自分から攻めていく将棋もある。

振り飛車

純粋なノーマルな振り飛車はかなりの減少傾向にある。

しかし、人間的には少し珍しい振り飛車はたまに指されている。

gikou_nb10_i5-560M vs. Maidy_Maidy (2017-04-26 05:30)

(初手からの指し手)

▲7六歩 △3二金 ▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △8八角成 ▲同 銀 △3三金 ▲6八玉 △2二飛(途中図)

f:id:fg_fan7:20170429154035p:plain

▲7八玉 △4二銀 ▲3八銀 △6二玉 ▲3六歩 △7二玉 ▲3七銀 △4四歩 ▲5八金右 △8二玉 ▲9六歩 △9四歩 ▲4六銀 △4三銀 ▲6六歩 △5四銀 ▲6七金 △7二銀(下図)

f:id:fg_fan7:20170429154112p:plain

 阪田流向飛車を思わせるような角交換型の振り飛車。

Maidy_Maidyというソフトがfloodgateで連採しており期待の振り飛車として注目される。

その他では相振り飛車も指される可能性はあるだろう。

まとめ

 コンピュータ将棋選手権の将棋において予想される出現頻度順に戦型を並べると、

角換わり≧横歩取り>相掛かり≧力戦≧矢倉>振り飛車の順になるかと思う。

数年前に比べて矢倉の出現頻度が大幅にダウン。

角換わりと横歩取りが中心になるだろう。

角換わりは最近出てきた新工夫の指し方に注目したい。

中盤での千日手模様の打開方法やそこからの新手にも期待される。

横歩取りはまふ定跡などの影響もあり、定跡の整備によって一発が入る可能性がある。

それだけのリスクはありながら堂々と避けずに戦うソフトも多い。

相掛かりはお互いの玉の位置に注目したい。

駒がぶつかるまでの互いの駒の配置が勝負の分かれ目となるだろう。

力戦では特に注目したいのが雁木。

攻撃的かつ、金銀の連結が良く容易に崩れない陣形が魅力的だ。

矢倉はやはり急戦矢倉が中心となるだろう。

矢倉を採用するソフトは減少傾向にあるがそれでも中には挑戦するソフトをいるかもしれない。

特に左美濃急戦は最近、斎藤七段による新刊が出たばかりなので新たな展開がみれることに期待したい。

振り飛車も局数は少ないと思うが、従来にはなかったような変わった振り飛車がみられることになると思う。

参考書籍

コンピュータ将棋に造詣が深い、将棋観戦記者の松本博文氏による新書が5/2に発刊される。

この本を前日に読んでおけば第27回世界コンピュータ将棋選手権がより楽しめるものになるのは間違いないだろう。

また、5/11にはponanza開発者、山本一成氏による本も出版される。

ponanzaに関しては情報が少ないだけにその内容に注目が集まるはずだ。

目次をみるだけでワクワクする人もいるだろう。

 はじめに

【第1章】将棋の機械学習――プログラマからの卒業
将棋の名人を倒すプログラムは、名人でなければ書けないのか?
そもそも、コンピュータとは何か?
将棋を指すプログラムは、どう作るのか?
将棋における探索と評価
評価の仕組みの作り方
人工知能の「冬の時代」
人間の思考を理解するのは諦めた
なぜ、コンピュータ将棋はコンピュータチェスに20年遅れたのか?
局面数が多いから人間に勝つのが難しいわけではない
コンピュータにとって将棋が難しい理由
コンピュータにとっての将棋とチェスの本質的な違い
コンピュータ将棋での機械学習
機械学習の弱点と工夫
ポナンザの成長
電王戦
プログラマからの卒業

【第2章】黒魔術とディープラーニング――科学からの卒業
機械学習によってもたらされた「解釈性」と「性能」のトレードオフ
黒魔術化しているポナンザ
黒魔術の1つ「怠惰な並列化」
ディープラーニングで人工知能が急速に発展する
ディープラーニングのしくみと歴史
ディープラーニングを支える黒魔術、「ドロップアウト」
今、ディープラーニングはどれくらいのことができるのか?
ディープラーニングと知能の本質は「画像」なのか?
還元主義的な科学からの卒業

【第3章】囲碁と強化学習――天才からの卒業
人工知能の成長が人間の予想を大きく超えたわけ
人間は「指数的な成長」を直感的に理解できない
人類はこれから、プロ棋士と同じ経験をする
ポナンザの「守破離」
強化学習とは何か
ポナンザ流の誕生
人類の反撃と許容
アルファ碁の登場
なぜ、コンピュータにとって囲碁だけが特別なゲームだったのか?
モンテカルロ法という救世主
サイコロにも知能がある!?
モンテカルロ囲碁の成長
アルファ碁が示したこと「囲碁は画像だった」
アルファ碁の3つの武器
アンサンブル効果
科学が宗教になる瞬間
天才からの卒業

【第4章】倫理観と人工知能――人間からの卒業
知能と知性
「中間の目的」とPDCAで戦う人間の棋士
「目的を持つ」とは意味と物語で考えるということ
人工知能はディープラーニングで知性を獲得する
ポナンザ2045
人工知能は人間の倫理観と価値観を学習する
シンギュラリティと「いい人」理論

おわりに

【巻末付録】グーグルの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?
人間を超えたアルファ碁は、どのようにして強くなったのか
アルファ碁はたくさん手を読んでいるのではなく、猛烈に勘がいい
読んでいない手を打たれると途端に弱くなる? アルファ碁の攻略法を探る
人類に残されたのは、言葉と論理。アルファ碁が示した人工知能の可能性とは

 この2冊を読めばコンピュータ将棋をより深く知ることができ楽しめるのは間違いない。

 それでは本記事が世界コンピュータ将棋選手権を楽しみにしているすべての方に参考となる記事になることを願って終わりにしたいと思う。