はじめに
ゴールデンウィークといえば世界コンピュータ将棋選手権だ。
公式サイト
http://www2.computer-shogi.org/wcsc29/
2019年5月3日(金)〜5日(日)に川崎市産業振興会館で行われる。
今年はドワンゴ賞 : 優勝・2位・3位に賞金を授与(総額200万円)という高額の賞金が出ることも話題になっている。
今回の記事では参加チームのアピール文書を見ての大会の展望を書いていきたいと思う。
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大会参加は60チーム
大会参加チームは60チームで前回の56チームから微増した。
前回決勝リーグに残った8チームは今回も全チーム参加となり、ハイレベルな戦いは必至である。
ではそれぞれのチームを一つずつ見ていきたいと思う。
Kristallweizen
前回優勝のHefeweizenがチーム名を新にKristallweizenとして連覇を狙う。
独自に改良した評価関数と、先行先読みMulti Ponderが特徴のソフト。
とくに先行先読みMulti Ponderは驚異的で、時間短縮と評価値的に優位に立つことが期待できる。
特に青野流や角換わり腰掛け銀はかなり深堀りしているのではないかとみている。
前回プレイバック
相居飛車の力戦形。
上図から△8六歩▲6四歩 △8七歩成(下図)と激しい戦いになった。
PAL
前回準優勝と大活躍をし、角換わりや雁木を中心とした本格的な指し回しが話題となった。
KPPT型評価関数で開発中というスタイル。
※大会直前にNNUE型に変更となった。
今年も上位に食い込むのは間違いないだろう。
前回プレイバック
後手の雁木に対して左美濃から速攻を仕掛けた。
序盤戦術が卓越しており、人間が参考になる面も多い。
Apery
電王戦出場経験もあり、強豪ソフトとしては長らく安定した戦績を誇る。
使用言語がRustという他のチームとは打って変わった手法で改良している。
第24回世界コンピュータ将棋選手権で優勝。
前回プレイバック
対角交換振り飛車の終盤戦。
上図から▲8五香打 △9四角 ▲3二角成 △5八と▲6五馬(下図)として8筋に勢力を集めたのが見事な駒運びだった。
名人コブラ
AlphaGoの影響でMCTS(モンテカルロツリーサーチ)に興味を持ってしまったので、定跡の作成と評価関数学習用棋譜の作成にMCTSを利用する予定です。
ということで定跡の精度に期待がかかる。
今年も決勝リーグ進出なるかに注目したい。
前回プレイバック
角換わりの序盤戦。ここから名人コブラが仕掛けた。
上図から▲4五桂 △4四銀 ▲2四歩 △同 歩▲同 飛 △2三歩 ▲3四飛 △3三桂 ▲6六角(下図)と進んだ。
▲4五桂が意欲的な仕掛け。上図は難しい形勢ながら仕掛け自体は成立してそうだ。
狸王
いまや主流となったNNUE評価関数を採用。
また、本大会ではクラスタリング手法でWCSC27でPonanzaが導入した 「eXtream Lazy Smp」を改良したものを実験中とのこと。
電王トーナメント優勝経験もあり、今回も期待がかかる。
前回プレイバック
終盤戦。上図から▲3三金 △同 金▲5五桂 △3四玉 ▲3三角成 △同 玉 ▲6三龍 △同 馬▲3四銀 △4二玉 ▲4三金 △5一玉 ▲6三桂不成 (途中図)
△6二玉▲5二金 △同 玉 ▲5三銀 △同 玉 ▲6四銀 △4二玉▲5一角 △3一玉 ▲4二金 △2二玉 ▲2三銀成(投了図)と長手数の詰みに打ち取った。
大合神クジラちゃん
リスナーのパソコンの資源を借りてクラスタ構成をする異色のソフト。
毎大会、驚異的なNPSを記録している。
また、定跡においてもコンピュータ将棋に詳しいまふ氏のまふ定跡の力を借りて作戦勝ちを目指す。
前回プレイバック
相雁木の中盤戦。
上図から△8七銀成 ▲同 玉 △8六歩 ▲7六玉 △8七銀(下図)と鋭く攻め込み後手優勢となった。
Qhapaq di molto (QDM)
Qhapaqと書いてカパックと読む。
角換わりに飽きた
• 角換わりを避ける定跡を作りたい
• しかし、ソフトは定跡なしだと角換わりを指しまくる
• 人間の棋譜も角換わりだらけである
• 定跡は評価関数との相性もあり、生成、テストに時間がかかる
• ご家庭用PCで戦える余地は当然ない
棋譜のビッグデータから特定の戦型を抽出、検品する
• 棋譜の戦型を細分化し使いやすい戦型(角換わり以外)を探す
• 短い持ち時間での解析結果を補外することで検品コストを削減
アピール文書にあるとおり、今大会では角換わりを避けることを明言している。
矢倉・雁木・力戦振り飛車などが見られるかもしれない。
Qhapaqの戦型選択に注目したい。
前回プレイバック
角換わりの序盤戦。しばらく駒組みが続くと思われたが、上図から△8六歩 ▲同 歩 △7五歩▲同 歩 △8七角 ▲2五歩 △5四角成(下図)と進み馬を作った。
形勢は難しいながら力戦に持ち込む勝負術だ。
HoneyWaffle
ご存知の通り振り飛車党の強豪ソフト。
振り飛車をメインに戦うことには意味があり、
振り飛車にすれば対抗形になってじわじわとした渋い展開になる
→手数が伸びる
→最初から時間を残しつつ時間攻め
という戦略を見据えている。
「自分の戦い方で、最強の振り飛車党ソフトを目指す」
また、探索部もやねうら王ベースに「あるもの」を追加するという秘策があるようだ。
大会での戦いぶりに注目したい。
前回プレイバック
後手の角交換振り飛車からはじまった将棋の中盤戦。
後手の飛車が窮地に立たされているがここからのさばきが絶品だった。
上図から△2三飛 ▲1二飛成 △3四角 ▲4二龍 △1三飛(途中図)
▲3二成銀 △4六歩 ▲3三成銀 △5六角 ▲5七香 △7八角成▲同 金 △6九金(途中図)
▲4一角 △6二金引 ▲7七銀△5七馬▲7五歩 △1八飛成(下図)
華麗なさばきで自陣で窮地に立たされていた飛車が敵陣で龍になる戦果を挙げた。
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PAL
Apery
名人コブラ
狸王
大合神クジラちゃん
Qhapaq di molto (QDM)
HoneyWaffle
以上が前回決勝リーグに残った8チームだ。
今回もこの8チームが優勝戦線に絡んでくるのは間違いないだろう。
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その他強豪チーム
大将軍
安定した戦績を誇る強豪ソフト。今年は決勝リーグ進出なるか。
前回プレイバック
後手の角交換振り飛車に先手の居飛車穴熊の将棋の中盤戦。
上図から▲8八桂(下図)が指しずらいながら強い受けの一手。
以下、△9八香成▲同 玉 △9七歩 ▲同 桂 △9六歩 ▲同 桂 △9五銀▲8八桂△6五馬 ▲7六歩(下図)としっかり受けて先手有利となった。
たこっと
評価関数にKKPAR(詳細は大会終了後に公表)を採用。
上位進出も十分に考えられる。
前回プレイバック
上図から▲2三銀成 △同 玉 ▲2四金 △1二玉▲2一角成 △同 玉 ▲3二銀(途中図)
△同 飛 ▲同 金 △同 玉▲3三銀成 △4一玉 ▲4二飛 △5一玉 ▲6二成桂(投了図)で見事に詰ましあげた。
nozomi
特別に開発されたNNEU(New liNear evaluation function dividEd by tUrn)評価関数を使用。
いままでの評価関数と比較して2倍の大きさを持つパラメー ターにより、多様な局面に対して局面評価が正確になり、驚くような強さになる
とのこと。中盤での戦い方に注目したい。
前回プレイバック
終盤の局面。先手が▲7五角と王手をしたところである。
ここで△2二玉は▲3三とで逆転する。
上図から△2一玉(下図)で凌いでいる。
以下、▲5七角 △2九飛 ▲5九桂 △4八金▲6八銀 △4九飛成 ▲4八角 △同 馬(下図)と進んで後手勝ち筋となった。
elmo
前回は200手で落ちてしまうバグが多発してしまい決勝進出がならなかったが、本来の強さは誰もが認めるところ。
本大会では決勝リーグ入りの可能性は高いだろう。
前回プレイバック
先手が▲9九歩と打った局面。ここで△同龍は▲3四桂で先手有利。
上図から△9七角(下図)が鮮烈な一手。
以下①▲同桂には△9九龍▲8九角△9八銀、②▲8八銀には△同角成▲同金△6八銀でそれぞれ後手勝勢。
本譜は▲6八玉としたが△7九銀 ▲同 飛 △同角成 ▲同 玉 △7八龍▲同 玉 △8七歩成 ▲6八玉 △7八飛(下図)と進み、以下見事に即詰めに打ち取った。
Novice
ネット上では今大会の台風の目とも噂される期待のソフト。
今年からチーム編成となる。
また、Xeon多重構成の大規模クラスタにより大幅なNPSアップが予想され、他チームからはライバルとしてマークされているだろう。
前回プレイバック
横歩取りの将棋で後手が△8四角と打った局面。
上図から▲7四飛(下図)
がうまい一手で、以下△6六角 ▲6四飛 △8八角成▲同 金 △6四歩 ▲2一飛(下図)と進んで先手勝勢となった。
やねうら王
優秀な探索部は他のソフトも多数採用しているコンピュータ将棋界の重鎮的存在。
世界コンピュータ将棋選手権には意外なことに初参加となる。
昨年はマイナビ出版から将棋神 やねうら王を発売し、売り上げ好調のようだ。
また、つい先日100テラショック定跡という100兆局面を調べて作成したやねうら王用の定跡ファイルが一般公開され、大会に向けての定跡整備も進んでいる。
(WCSC29までに1P(1ペタ = 1000兆)局面ぐらいまで調べるとのこと。)
参考記事
100テラショック定跡、公開しました | やねうら王 公式サイト
過去の実績からしても優勝候補の筆頭である。
水匠
「すいしょう」と読む。
NNUEKaiなどNNUE評価関数の改良版を多く一般公開しており、その完成度の高さが評価されている。
定跡に関しても工夫が施られている。(以下アピール文書より引用)
(2)また、定跡の作成については、「どういう展開にすれば自分が勝ちやすいかという点も踏まえた(中村太地七段による豊島将之二冠評)定跡作成が有効であると考えています。
本参加者が今まで作成してきた定跡(白黒定跡)は、単なる勝率ではなく、圧勝率(先手番評価値及び後手番評価値が、一度も敗者側に振れないまま全く紛れなく勝ち切った対局の勝率)を考慮して作成したものです。
このような定跡作成手法によって作成された定跡は、評価関数単体よりも勝率を高くすることが可能で、かつ、定跡の穴を狙われにくいものであると考えています(実際はどうかわかりません。)。
WCSC29 においても、同じ手法で作成した定跡を採用する予定です。
定跡の穴をつぶす工夫がされており、大会での序盤戦術にも注目したい。
【紹介文】
— たややん@水匠+NNUEkai (@tayayan_ts) February 14, 2019
コンピュータ将棋に関するNNUE評価関数等を公開しています。https://t.co/09rtGcuF7r
1 NNUEkaiX
NNUEkai7(レーティングサイトで暫定トップ)よりも勝率が高い最新版評価関数
2 NNUEkaiXF
居飛車を過大評価しない振り飛車党評価関数
3 NNUEkaiU
2枚落ち上手の強さに特化した評価関数
また、大会版では後手番で角換わりをほぼ指さないとのこと。その他の有力戦法が何なのかが気になるところである。
WCSC29参加予定の水匠は、現在、後手番で角換わりをほぼ指さず、他の有力戦法を学習した気がします。
— たややん@水匠+NNUEkai (@tayayan_ts) April 13, 2019
本番でどこまで通用するか、楽しみです!
他にもBonanza開発者の保木邦仁さん、YSS開発者の山下宏さんがチームにいるAoba Zeroやフランスからの参加となるCrazy Shogiも気になるところだ。
まとめ
・大規模な計算資源を活用した高次元の戦い
上位進出が期待されるソフトのほとんどがAWS等、クラウドサービスの多重構成での利用や、Xeonなどのワークステーションを利用して大会に挑む。
昨年からの主なルールの変更点としては、
持ち時間(フィッシャークロックルール)について、当初の持ち時間が15分、1手ごとの加算が5秒としました。(第24条第3項)
引き分けとなる手数を256手から320手に増やしました。(第27条第3項)
となっており、256手ルールから引き分けまでの手数が伸びた。
戦型としては相居飛車で角換わりが中心になると思われるが、参加チームの中には角換わりを避けると明言しているチームもあり(Qhapaq、水匠(※後手番))、各チームの戦型選択にも注目したい。