はじめに
コンピュータ将棋が急速に棋力を向上していったことと、強いソフトがフリーでダウンロードできる環境が整ったことが影響し、現在の将棋界ではソフト発による新手がタイトル戦の大舞台でも指されるようになった。
指された新手は複数あるがここでは第64期王将戦七番勝負第一局渡辺ー郷田戦について考えてみたい。
王将戦の実戦
ここで前例では▲同銀直だったが、▲5五銀左がソフト発の新手とされた。
以下先手が勝っている。
この手を指したのは渡辺棋王だが、発祥は森下九段のパソコンに入っていたツツカナだという。そこで私もこの局面を大樹の枝で検討をかけてみた。
検討ソフト Apery_Twig_SDT3
* 候補1 時間 17:29.2 深さ 24/39 ノード数 2022489758 評価値 270 読み筋▲5五銀△同 銀▲4七銀△1三角▲1五歩△6六銀▲1四歩△5七角成▲同 金△同 銀成▲4六角打△9七桂成▲同 玉△9二飛▲8七桂打△4七成銀▲7三角成△3八金打▲同 飛△同 成銀▲4五桂△6九飛打▲1三歩成△同 桂▲3三桂成△同 金▲1四歩打△8九飛成▲1三歩成△3一玉
このようにやはり第一候補手として▲5五銀左を読んだ。他の手では▲同銀直と▲4三歩成を読んでおり、それぞれ先手がマイナスの評価値となっている。
ようするにこの58手目の局面は先手は▲5五銀左以外の手を指すと形勢が悪くなるという局面であった。
※2019/01/20追記
現在の最新ソフトdolphin1+NNUEKai7で改めて58手目の局面を検討してみた。
やはり、▲5五銀左を最善手と読んでおり、その評価値は+174となった。
まとめ
渡辺棋王はどのくらいソフトを信用しているのかとの問いに対して
「ある程度は信用していますが、(ソフトが優勢と判断した局面から)自分が指し継いで、勝ちまで持っていけるかどうか、つまり勝ちやすさの判断をします。あとソフトの出す数値と、人間対人間用の形勢判断の数値は違うので」
と述べている。
実際、今回の課題局面で大樹の枝が出した評価値は+270。
この数字をどう見るかは人それぞれだが、私はこの程度の数値ではまだまだ勝ち切るのは容易ではない局面のように思う。
この将棋は渡辺棋王の言うソフトの出す数値と、人間対人間用の形勢判断の数値は違うというまさにその局面なのかもしれない。
なおfloodgate2013年~2015年の全棋譜ではこの局面と同一の局面はヒットしなかったが、その少し前の局面の将棋はヒットしたので紹介しておく。
棋戦:wdoor+floodgate-900-0+ponanza-990XEE+Bonanza6.0-Opteron250-2c+20130215170002
先手:ponanza-990XEE
後手:Bonanza6.0-Opteron250-2c
※この記事を書く際には下記の書籍の記事を一部引用させていただきました。