はじめに
先手矢倉に対する後手番の急戦矢倉の中でも、対矢倉△5三銀右急戦は長らくの間人気の戦法であった。
現在では、一番人気のポジションを対矢倉左美濃急戦に受け渡した格好となっているが2019年1月時点でもまだまだ有力な指し方であることには変わらない。
今回の記事ではその対矢倉△5三銀右急戦の実戦例をfloodgateの将棋を題材として見ていきたいと思う。
対矢倉△5三銀右急戦の実戦例
動く将棋盤は以下のリンクから
https://shogi.io/kifus/234828
開始日時:2013/06/25 22:00:00
棋戦:wdoor+floodgate-900-0+amatyan+NineDayFever_XeonE5-2690_16c+20130625220000
先手:amatyan
後手:NDF
上図の△3三銀は▲羽生四冠△渡辺竜王(08年12月、竜王戦第7局)で現れた渡辺新手である。その将棋はあまりに有名だが、今回の記事ではfloodgateの実戦ではどのように指されているのかを検証していきたい。
まず上図の局面はfloodgateにおいて2013年~2015年の間に86局指されている。
ここからの次の一手および、勝率の統計は以下のようになっている。
次の手 棋譜数(%) 先手勝率
────────────────────────────
1.▲6五歩 64 ( 74%) 0.500 30勝 30敗
2.▲7九角 9 ( 10%) 0.333 3勝 6敗
3.▲5七銀 8 ( 9%) 0.167 1勝 5敗
4.▲5九銀 2 ( 2%) 0.000 0勝 2敗
5.▲2四歩 1 ( 1%) 1.000 1勝 0敗
6.▲9六歩 1 ( 1%) 0.000 0勝 1敗
7.▲5六金 1 ( 1%)
────────────────────────────
計 86 0.443 35勝 44敗
このように後手の勝率が高く、この新手の優秀さがわかる。
本記事では一番指し手の多い▲6五歩の将棋を見ていきたい。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲6五歩 △7三角 ▲6六銀 △8四角 ▲5七銀上(下図)
以下少し進んで上図の局面。ここでは△3一玉が多いが、NineDayFever(PuppetMaster時代も含む)はfloodgateの実戦ですべて△5二金と指している。
玉を4一のままで速攻をしかけようという考えだ。
(上図からの指し手)
△5二金▲5六銀 △6四歩 ▲同 歩 △7三桂 ▲5四歩 △6四銀 ▲6五歩 △同 桂 ▲同銀右 △同 銀 ▲同 銀 △3九角成 ▲2六飛
(下図)
桂損の猛攻を仕掛ける。馬を作り、先手の玉のほうが薄いので仕掛けは成立しているとみる。
(上図からの指し手)
△4八馬 ▲6八玉 △5七歩 ▲同 金 △8六歩 ▲同 歩 △6九銀 ▲7九金 △8六飛
(下図)
見事に細かい攻めを繋ぎきった。以下後手が快勝している。
この将棋の総棋譜は以下から
まとめ
対矢倉△5三銀右急戦は戦術としての作戦の幅が広い上に奥が深く、急戦という名称でありながら持久戦に切り替えることもできる魅力的な作戦である。
これまでプロ棋戦ではタイトル戦などの大舞台で指されてきた歴史のある戦法だ。
対矢倉△5三銀右急戦は一時期ほどの流行は見られていないが後手番の戦法として非常に有力だと思う。
またプロ棋戦でも指されるようになるのではないだろうか。
参考書籍
村山慈明七段による対矢倉△5三銀右急戦の専門書。
総ページ数は300ページを超え、戦法の発祥時期から全盛期まで豊富な実戦例をもとにていねいに解説している。