コンピュータ将棋研究Blog

Twitterアカウントsuimon@floodgate_fanによるコンピュータ将棋研究ブログです。

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中盤に潜んでいた妙手順【矢倉対雁木】

はじめに

floodgate(コンピュータ将棋対局場)では毎日多くの対局がこなされている。

公式サイト

http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/floodgate.html

その対局の中には驚くような構想や中盤の妙手がみられる時がある。

今回の記事では、floodgateの将棋から中盤に潜んでいた妙手順を見ていきたい。

中盤に潜んでいた妙手順の実戦例

動く将棋盤は以下のリンクから

https://shogi.io/kifus/236223

開始日時:2018/11/13 10:00:00
棋戦:wdoor+floodgate-300-10F+gikou2_1c+SoleSurviver+20181113100002
先手:gikou2_1c
後手:SoleSurviver

 

f:id:fg_fan7:20190319085137j:plain

後手の4手目△4四歩からの雁木に対して先手が矢倉で対抗した将棋の中盤の局面。

2五の地点で桂交換が行われたところで、何気なく局面が進行していきそうなところだがここで後手からの意表の攻め筋があった。

(上図からの指し手)

△5四歩 ▲8二角 △8五桂▲6八銀 △9七桂打(下図)

f:id:fg_fan7:20190319085711j:plain

まず、△5四歩として先手からの▲5五桂の筋を防いでおく。

先手はチャンスとみて▲8二角と敵陣に角を打ち込んだ。

▲8二角に対して△6二金とするのは▲8三桂(参考図)という異筋の一手がある。

f:id:fg_fan7:20190319090049j:plain

強引ながら9一の地点を狙って勝負。

よって後手は△8五桂と跳ねだす。

△8五桂に対して①▲8八銀は△4九角▲2八飛△6七角成▲同玉△7二金で後手有利。②▲8六銀は△7二銀として次に△6三金~△8一飛を狙ってこれも後手よしとなる。

本譜は▲6八銀とした。これは次に▲8六歩から桂を取り切ろうとしている。

後手はどうやって攻めをつないでいくかといった局面だが、なんと△9七桂打という妙手が潜んでいた。

(本譜局面図再掲)

f:id:fg_fan7:20190319085711j:plain

(上図からの指し手)

▲7三角成 △8九桂成 ▲同 玉 △9七桂成(下図)

f:id:fg_fan7:20190319092007j:plain

△9七桂打に①▲同香は△同桂不成▲同桂に△2四香(参考図)で後手の狙いが実現する。

f:id:fg_fan7:20190319092314j:plain

先手の飛車が捕まっている。

②▲同桂も△同桂成▲同香に△8五桂(参考図)として、やはり香を取っての△2四香狙いが受けにくい。

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放置すると△9七桂成がありそれを受けるすべも難しい。

また、③▲7七桂も△8九角▲8八玉△6七角成▲同銀△8九桂成▲7八玉△7九金▲同金△同成桂▲6八玉△6九成桂▲同玉△7七桂成(参考図)と進んで後手勝勢となる。

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後手の攻めが大成功。

よって本譜は▲7三角成としたが、△8九桂成▲同玉に対して△9七桂成と桂を成り捨てたのがまたまた妙手順だった。

(本譜局面図再掲)

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(上図からの指し手)

▲7八金 △4九角 ▲7九玉 △3八角成 ▲5七銀右 △9四歩▲8四馬 △4五桂(下図)

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 △9七桂成にはやはり▲同香と取れない。(△8五桂~香を取っての△2四香狙い)

先手は▲7八金としたが、後手は△4九角として攻めを継続する。

△4九角には恐ろしい狙いがあり、次に△6七角成として▲同銀には△7七桂から即詰みとなる。

よって先手は▲7九玉と寄り、その筋を回避した。

その後、△3八角成として挟撃形を作ってからじっと△9四歩と突いておく。

先手は飛車が依然として動きにくくなっている。

▲8四馬は次に▲8三馬から▲8五飛として飛車を転回できれば先手も面白いが、後手はそれを阻止して△4五桂と銀取りに桂を打った。

(本譜局面図再掲)

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(上図からの指し手)

▲9七香 △3三玉 ▲6五歩 △2四歩 ▲2六飛 △9五歩 ▲同 歩 △8一飛 ▲8三桂△7二銀(下図)

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後手は桂馬を手放したので先手はようやく▲9七香と桂馬を取る。

△3三玉は次に△2四歩▲2六飛△5七桂成▲同金△3七銀を狙っている。

▲6五歩は前述の進行である△5七桂成の時に▲同馬と取れるようにしたもの。

そのように進めば先手にも楽しみがあるが、△2四歩▲2六飛△9五歩▲同歩△8一飛と進んで先手はしびれた。

8四のラインから馬がそれると△5七桂成~△3七銀の筋がある。

馬のラインを維持するには▲8三桂しかないが、冷静に△7二銀と引かれてみると次の△8三銀が受からず後手優勢となった。

この将棋の総棋譜は以下から

まとめ

本局の中盤戦は一見チャンスがないように見える局面でも考えれば踏み込む手順があったという好例だと思う。

本手順に現れなかった手順の中にも水面下で重要なものもあり、密度の濃い一局だと感じた。

中段飛車は香で狙われる展開になると弱みがある。

まったくの同一手順が現れるのはなかなかないと思うが、このような手順もあるということを知っておくだけでも今後の局面の見方が変わってくると思う。