はじめに
藤井聡太四段は6/26、増田康宏四段に勝ち将棋界における新記録の29連勝を達成。
7/2に佐々木勇気五段に敗れ連勝はストップしたものの、
7/6には中田功七段に勝ち、その勢いはとどまることを知らない。
今回の記事ではその中田功七段との対局から藤井四段が魅せた打ち歩詰め逃れのテクニックを紹介したいと思う。
打ち歩詰めで逃れる藤井四段の妙技
先手藤井四段の居飛車穴熊・後手中田功七段のノーマル三間飛車で始まった将棋の終盤の局面。
藤井四段の8六から跳ねた91手目▲7四桂が鋭い一手だった。
以下、△9八歩 ▲同 玉 △8六桂 ▲9九玉(下図)と進んだ。
図の局面で△9八歩は打ち歩詰めの反則となる。
また、角は頭が丸い駒なのでこの際は有効に活用することが難しい。
このようなギリギリの手順で逃れつつ相手玉に詰めろを掛けた(▲8二金まで)藤井四段の勝負術には感心せざるを得なかった。
95手目▲9九玉以降も難解な形勢だったが、数手後に中田功七段にミスが出て藤井四段の勝利となった。
※100手目△7四桂に代えて△9七桂成▲同桂△9八歩▲8九玉△6三角(参考図)で形勢不明の終盤戦。
この藤井四段の打ち歩詰めで逃れる妙技にはネット上でも賞賛の声が相次いでいた。
穴熊の長所
居飛車穴熊の戦術を詳細に分析した阿部健治郎七段による四間飛車激減の理由 (マイナビ将棋BOOKS)は名著として名高いが、その中でも序章 四間飛車の変遷の中で非常に興味深い考察があった。その一部を紹介する。
阿部健治郎七段の分析では、穴熊は打ち歩詰めや連続王手になりやすく、水面下で頻出するという。
その理由として、玉が狭い場所、つまり端に玉がいると打ち歩詰めが起きやすいということだ。
参考図として以下のような局面がある。
上図は後手が△9七歩と打ってきた局面だがここで▲同香が成立する。
(△9八歩は打ち歩詰め)
このように打ち歩詰めという将棋のルールを利用した受け方は高度ながら実戦でも応用が可能である。
阿部健治郎七段によるまとめ
まとめると、穴熊は
①ゼットが続くため速度計算がしやすい。
②金銀の打ち合いで、最低千日手の状況になりやすい。
③連続王手や打ち歩詰めになりやすい。
このように穴熊は将棋のルールを最大限に利用している囲いなのだ。
書籍リンク
floodgateでの打ち歩詰め逃れの実戦例
実戦例は少ないもののfloodgateでも穴熊の打ち歩詰め逃れのテクニックが使われた将棋があったのでここで紹介する。
↓動く再生盤はこちらから
打ち歩詰め逃れの穴熊のテクニック1 | Shogi.io(将棋アイオー)
先手が居飛車穴熊、後手がノーマル四間飛車ではじまった将棋の中盤の局面。
後手が△7六角成と先手陣ににらみを利かせた局面だ。
先手陣は一見危なそうに見えるが、△9八歩▲同玉△8六桂▲9九玉と進んだ局面が打ち歩詰め逃れになっている。
(上図からの指し手)
▲6三歩 △9八歩 ▲同 玉 △8六桂 ▲9九玉 △4七と ▲6二歩成 △同 飛 ▲8六歩 △5七と ▲9八金(下図)
▲6三歩が恐いながら最短で勝ちにいった手。
後手も形を決めてから△4七とで銀を入手しようとする。
▲6二歩成は好判断の一手で、ここで△5七とと詰めろを掛けると以下、▲7二と△9二玉(△同玉は▲6一馬以下詰み)▲8二金△9三玉▲9四金△同玉(△同馬は▲8六歩)▲9五銀(参考図)
と進んで8六の桂馬を取ってしまえば先手の勝ちとなる。
本譜も△5七とのタイミングで▲9八金と自陣を鉄壁にして安泰。
先手がしっかり勝ち切った。
まとめ
今回は藤井聡太四段が指した穴熊で打ち歩詰めの局面にして逃れる妙技をまず見て、次に阿部健治郎七段によるこのテクニックの分析、そしてfloodgateでの実戦例をみてきた。
このようなテクニックを実戦で指せると気分は最高だ。
一見危ないように見えるが、前に効きのある駒を渡さなければ大丈夫なのである。
しっかり読みを入れる訓練にもなるのでこの際このような指し方をマスターすると実戦での勝率もあがるだろう。
参考書籍