はじめに
藤井聡太七段は現役の高校生棋士ながら、プロデビュー後は圧巻の成績を収めている。
その強さは将棋に詳しい人であれば棋譜を見ればわかるが、将棋歴がまだ浅い人にとっては「藤井聡太七段は具体的にどこが強いのか」という疑問があるかもしれない。
今回の記事ではアマチュア初段クラスの人にでも藤井聡太七段の強さがわかるように説明していきたい。
序盤編~ソフト研究の影響と発想の自由さ~
まずは序盤編。
藤井聡太七段はコンピュータ将棋ソフトでの検討を普段の研究に取り入れているという話は有名だ。
公式戦での対局においてもその影響を感じされるものは多い。
2018/11/20
持ち時間:6時間
棋戦:順位戦
戦型:中飛車
場所:東京・将棋会館
先手:増田康宏六段
後手:藤井聡太七段
順位戦での増田康宏六段との対局から。
上図は先手の増田六段が▲6七銀と上がった局面で藤井七段の一手が現代感覚の一手だった。
(上図からの指し手)
△4二銀 ▲5六歩 △8五歩 ▲7七角 △7四歩▲5八飛 △5四歩 ▲4八玉 △3一金(下図)
8手目の△4二銀が10年前なら考えられなかった一手。
その理由としては先手に振り飛車の余地がある場合、△4二銀が形を決めすぎている可能性があるからだ。
後手としては相手が振り飛車の場合は4二の地点には銀よりも玉を持っていくのが普通の従来の考え方である。
増田六段は「△4二銀を見て雁木にしようとしていたが飛車を振りたくなった。」と感想戦で述べている。
そして▲5八飛と中飛車にしたが、上図最終手の△3一金がまさに現代感覚の一手だった。
(上図からの指し手)
▲3八玉 △4一玉 ▲2八玉 △3二玉 ▲3八銀 △5三銀右(下図)
対振り飛車の将棋では居飛車側は玉を左辺に持っていくのが通常のセオリーである。
そこで藤井七段は△3一金とすることで玉を4一~3二というルートで移動させる道を作った。
上図の局面は形勢はまだまだの将棋ながら藤井七段の作戦はうまくいった図となった。
この△4二銀から玉を囲う手法はコンピュータ将棋ソフトも指しており、藤井七段はそこに影響を受けたのかもしれない。
- 藤井七段はソフトでの研究を普段から行っておりそれを対局に生かしている
- 新感覚の構想をいち早く対局に取り入れている
- 自由な発想の序盤感覚
中盤編~意表さと正確さ
次に中盤編をみていく。
藤井七段は居飛車党で戦型の選択は相居飛車戦では角換わりが最も多い。
(参考サイト)
藤井聡太七段の成績とレーティング / shogidata.info
本項ではその角換わりの将棋から藤井七段の中盤戦を見ていきたい。
開始日時:2018/09/09 20:15:00
持ち時間:5分
棋戦:その他の棋戦
戦型:角換わり腰掛銀
場所:AvemaTV
先手:佐々木勇気六段
後手:藤井聡太七段
先手の佐々木六段が角換わりを志向し後手の藤井七段がそれに追随した。
そして上図の局面を迎えた。ここから藤井七段は攻めていく。
(上図からの指し手)
△6五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲6四歩 △5四銀 ▲5五銀(下図)
藤井七段は先手の▲4五歩に対して△6五歩▲同歩△同銀と攻めていった。
それに対する佐々木六段の切り返しが▲6四歩△5四銀に▲5五銀という強手だった。
(上図からの指し手)
△同 銀 ▲6三歩成 △5一玉(下図)
先手の▲5五銀は一見タダのように見えるが△同銀に対して▲6三歩成が狙いである。
これを△同金と取ると▲7二角(参考図)が厳しい。
▲6三歩成に対して後手はどうするのかという局面だが、ここで藤井七段が意表の一手を指した。それが△5一玉である。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
▲4七金 △5四銀▲6二と △同 玉 ▲5六歩 △6四銀 ▲4六角 △6三歩(下図)
△5一玉の局面は後手としても瞬間はかなり危ない形である。
しかし、ここからの藤井七段が指した陣形のリフォームが絶品だった。
まず、▲4七金に対して△5四銀と自陣を補強し▲6二とを催促する。
その後、△6四銀~△6三歩でさらに自陣を安定させた。
上図は藤井七段の△5一玉の勝負手が成功した格好となり、やや後手有利となった。
リスクを恐れずに積極的に局面をよくしていきたいという意思を感じさせる一連の手順だった。
- 常に最善を追い求める姿勢
- 無難な手順ではなくリスクがあってもより良い手を追及している
- 時に相手の意表をつく
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終盤編~的確さとあきらめない心~
藤井七段は将棋のクライマックスである終盤戦でもその強さを発揮している。
ただ、いくら藤井七段といえども毎回毎回順当勝ちをしているわけではない。
劣勢ながら、最後に勝負手を放ち逆転勝ちをしたケースもあるのだ。
それでは実戦での例を見ていきたい。
開始日時:2019/01/08 10:00:00
持ち時間:6時間
棋戦:順位戦
戦型:角換わり腰掛け銀
場所:関西将棋会館
先手:藤井七段
後手:富岡八段
上図は角換わり腰掛け銀ではじまった将棋の終盤の局面。
先手は次に△3九飛とされるとほぼ受けがないので、この局面で勝ちにいく寄せを目指さないといけない。
(上図からの指し手)
▲4一金 △4三玉 ▲7三馬(下図)
まず▲4一金と王手をして△4三玉に対して▲7三馬と桂馬を取った。
この▲7三馬で後手玉には詰めろが掛かっており、もし△3九飛と攻めてきたら▲5五桂△5二玉▲5一馬(参考図)までの詰みとなる。
よって後手は▲7三馬に対して受けの手を指した。
(本譜局面図再掲)
(上図からの指し手)
△4五金 ▲同 角 △5九飛 ▲6九金(投了図)
まで91手で先手の勝ち
後手は△4五金で上部への逃げ道を作ろうとするが、冷静に▲同角で次に▲5五桂△4四玉▲3五金△5五玉▲5六歩(参考図)までの詰めろが掛かっている。
よって後手はこの詰めろを防ぐために△5九飛(▲5六歩に対して△同飛成を用意)と指したが、そこで▲6九金が決め手となった。
(本譜局面図再掲)
投了図以下、△3九飛成には▲8二馬がやはり▲4二飛からの詰めろとなり後手玉は一手一手の寄り筋である。投了も仕方がない。
本局は藤井七段の自陣と敵陣の安全度を見極める正確な寄せが光った。
さらに終盤編でもう一局。
開始日時:2018/02/05 10:00:00
持ち時間:3時間
棋戦:王将戦
戦型:三間飛車
場所:関西将棋会館
先手:南 芳一九段
後手:藤井聡太五段
先手の南九段の三間飛車に対して藤井七段が居飛車穴熊で対抗したが上図の局面は5五の成銀が手厚く先手優勢である。
最近はこういったケースはほとんど見なくなったが、少し前は藤井七段はこのように中盤戦の局面で不利になるケースもいくつか見受けられた。
本項は終盤編なので局面を進める。
上図は89手目▲5三同成銀とした局面だが、先手の駒の方が急所に利いておりやはり形勢は先手がよい。後手は9九の成銀が使えない形なのがつらいところだ。
しかし、藤井七段は不屈の粘りをみせていく。
龍を引き上げて驚異的な粘り。しかし、形勢自体は好転はしていない。
逆転への布石となった端歩。
端攻めに勝負をかける。
藤井マジックとも呼べる妖しい歩打ち。
ついに形勢が互角に。
以下、▲同玉△2八成香▲4九玉△4八桂成▲同玉△3八金までの即詰み。
中盤戦の劣勢からの圧巻の逆転劇だった。
細かい手順の解説はしなかったが、藤井七段の劣勢になっても最後まであきらめないという執念が感じられる一局だった。
- 藤井七段の終盤の正確性は定評がある
- 自陣と敵陣の速度計算が的確
- 劣勢からの驚異的な粘りもある
まとめ
今回の記事では藤井聡太七段の強さを序盤・中盤・終盤に分けてアマチュア初段クラスの人にもわかるようになるべくていねいに分析していった。
序中終盤戦、それぞれの分野で藤井将棋は特徴がある。
まず序盤でのソフト研究に裏打ちされた自由な発想と今までにない感覚が出ている。
そして中盤戦では最善手を追求し、リスクを負うことをいとわない。
最後に終盤戦では正確な寄せと劣勢からの驚異的な粘りが持ち味である。
これから藤井聡太七段の将棋を観戦する際にはこの記事に書かれていたことを頭の片隅に置いておくと、藤井将棋に対する理解が深まるはずだ。
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