はじめに
河出書房新社から発刊されていた「最強将棋塾」シリーズはどの本も名著との呼び声が高く、発刊からけっこうな年月が経った今も定期的に読み返しているという人は多い。
今回の記事ではその名著ぞろいのシリーズの中、谷川浩司九段著「将棋新理論」について感想とその有意性について書いていきたいと思う。
「将棋新理論」の章立て
「将棋新理論」は「将棋を知るために駒の特性を考える」というテーマで、歩、香、桂、銀、金、角、飛、玉の8種類の駒別に谷川九段独自の解釈や理論を交えてその特性が解説されている。
目次は以下の内容になっている。
第1章 歩 その多様性
第2章 香 その直進性
第3章 桂 その意外性
第4章 銀 その機動力
第5章 金 その信頼感
第6章 角 その総合力
第7章 飛 その攻撃力
第8章 玉 その存在感
章ごとの進行の基本は部分図での解説→実戦図での応用という形式が多く、駒の特性を理解するのにスムーズな流れとなっていて読みやすい。
(例えば下図以下のような解説形式となっている)
・と金の底力というテーマ(第1章 歩 その多様性 p64より)
上図の局面から①▲2三金、②▲2三歩△1三角▲2二金、③▲2四歩という候補手をひとつひとつ検証していき、その候補手が最善なのかを解説している。
その他にも部分図での例題を示した後に、実戦での応用の局面を解説している。
(下図 p69より)
この局面で、先手からは①▲2三歩と②▲2二歩が見えるが、その両方の指し手を検証してどちらの指し手がいいのかを谷川九段は丁寧に解説している。
この本の特徴として解説がとても丁寧ということが挙げられる。
ひとつひとつの局面の下部にワンポイントの注釈が入っており、手の込んだ作りの一冊となっている。
その後は谷川九段の実戦を題材としてさらに応用した歩の使い方が解説されている。
このようにそれぞれの駒の特性を、基礎→発展→応用といった形式で学べる本である。
10年先、またその後も使い続けられる一冊
「将棋新理論」が発刊されたのは1999年6月25日であり、約20年近く前に出版された本だ。
そのため、現在最新形として指されている将棋の局面そのものに直結する分野の解説書ではないので、そういった局面を研究したい方はソフトを使うなり、なるべく最近出版された本に目を通すのがよいかと思う。
「将棋新理論」はそういった刹那的な知識ではなく、将棋の普遍的な分野や将棋の本質、そして一層の飛躍のための考え方を教えてくれる一冊である。
まえがきの谷川九段の言葉より引用する
定跡や手筋を教える本ではない。もちろん、強くなるために定跡や手筋を覚えるのも一法だが、そうした知識から得られる将棋の本質はせいぜい百のうち一か二にすぎない。
実戦という厳しい世界の中では、いつも自分の力だけで新しい局面に立ち向かわなければならないのが現実だ。
逆にいえば、既成の定跡や手筋だけにとらわれて将棋を指して勝ったとしても、少しも面白くないと思う。将棋の駒は自分自身の化身なのだ。その駒を使って、自由に自分の気持ちを表現する。将棋を指す本当の喜びもそこにある。本書で伝えたかったのは、自分を表現してくれる八種類の駒の個性である。(まえがきより)
私は「将棋新理論」を発刊当初の99年に購入したが、今でも定期的に読み返すようにしている。 いや、定期的に読み返したくなるという表現の方が適切かもしれない。
いつの時代でも使える内容であり、新たな発想のヒントにもなり得る一冊である。
今後も幅広い棋力層の将棋ファンによって、末永く愛用されていく一冊になると思う。
「将棋新理論」の出版状況について
公式サイトの情報では×品切・重版未定となっており、絶版に近い扱いとなっている。
ネットショップの販売状況では新品での購入は難しく中古での購入はできる状況だ。
本書が気になる方はぜひ一度手に取ってもらい、将棋のまだ見ぬ新たな可能性を感じてほしいと思う。